特別受益について詳しく解説します
ざっくりポイント
  • 遺贈または婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が特別受益にあたる
  • 相続開始時の遺産に特別受益にあたる贈与を加算したものを相続財産とみなして相続分を計算する
  • 被相続人は持ち戻しを免除することができる
目次

【Cross Talk】一部の相続人だけが贈与を受けるのは不公平?

父が亡くなって妹と二人で相続することになりました。 妹は父の遺産を半分ずつ分けたらいいと言っています。しかし、妹は結婚後に父に土地をもらい、その上に自宅を建てたのに、私は父から何ももらっていません。それなのに半分ずつというのはあまりにも不公平ではないですか?

そうですね。そういった不公平を是正するために「特別受益」という制度があり、相続分の計算にあたって一定の贈与を考慮することになっています。 妹さんの受けた贈与は特別受益にあたると考えられるので、亡くなったときの遺産を1/2より多く取得できる可能性があります。

安心しました。その特別受益について詳しく教えてください!

遺贈や婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与は特別受益!

一部の相続人が被相続人から贈与を受けていた場合、被相続人が亡くなったときに持っていた遺産をそのまま法定相続分で分けるのでは相続人の間で不公平が生じてしまいます。 そのような不公平を是正するため、民法は遺贈や一定の贈与を「特別受益」とし、相続分の計算に修正を加えています。 今回は、特別受益の意義や具体的な計算方法等、特別受益についてわかりやすく解説いたします。

特別受益とは?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 特別受益とは遺贈や婚姻・養子縁組のため若しくは生計の資本としてなされた贈与をいう
  • 学費や生命保険金が特別受益(または特別受益に準じるもの)とされる場合もある

亡くなった方から利益を受けていた場合に相続分を修正するという発想はわかりやすいですが、具体的にどのような利益を受けていたら特別受益になるのですか? 亡くなった方からもらったものが全部特別受益になるとあまりに計算が大変になるのではないですか?

おっしゃる通りですね。民法が特別受益とするのは遺言書でする遺贈のほか、婚姻・養子縁組のため、あるいは生計の資本として受けた贈与に限られています。 特別受益の意味や範囲についてご説明しましょう。

特別受益の意味

特別受益とは、共同相続人が被相続人(亡くなった方)から遺贈(遺言書によって遺産を無償で譲ること)または婚姻・養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けたことをいいます(民法903条)。

特別受益がある場合、相続人の間で公平を図るため、被相続人が相続開始のときに有していた遺産に上記の贈与の価額を加えたものが相続財産とみなされます。 このように特別受益の価額を加算することを、特別受益の持戻しといいます。

特別受益の範囲

特別受益となるのは、「遺贈」と「婚姻若しくは養子縁組のため」あるいは「生計の資本として」なされた贈与です。 遺贈が自動的に特別受益とされるのに対し、生前贈与は上記に該当するものだけが特別受益となります。 婚姻若しくは養子縁組のための贈与とは、支度金や持参金といった名目の出費が典型例です。 結婚式・披露宴の費用がこれにあたるかについては争いがあり、親の世間に対する社交上の出費の性質が強いとして、特別受益に含まれないとした裁判例もあります(例えば京都地裁平成10・9・11判タ1008・213)。

生計の資本としての贈与は、生計の基礎として役立つような財産上の給付を言います。相続人が自宅を建築する際に敷地となる土地を贈与された場合などが典型例でしょう。そのほかに特別受益にあたるかについて争いがあるのが学費や生命保険になるので、以下で解説いたします。

学費

被相続人が相続人に高等教育を受けさせるために学費を支出することは、相続人の将来の生計の基礎として役立つものと考えることができます。 しかし、高校進学率・大学進学率が上昇した現代にあっては、単に高等教育を受けたというだけでは特別受益と認められない可能性が高いです。被相続人の資力や社会的地位、学歴、他の相続人との比較などを検討する必要があり、他の相続人と比べて著しい不均衡が生じている場合には、特別受益と判断される可能性があります。

生命保険

生命保険金(死亡保険金)は、保険金受取人の固有財産とされるため、原則として特別受益にあたりません。 ただし、最高裁は「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」としています(最決平成16・10・29民集58・7・1979)。

特別受益に時効はない

特別受益には時効がありません。 したがって、相続の何十年も前の学費や婚姻のための贈与等であっても、特別受益に該当する可能性があります。 ただし、贈与から長期間が経過すると、贈与財産の価額に変動が生じる可能性があります。 そのため、特別受益は、相続開始時の価額で評価する(贈与財産が金銭の場合は相続開始時の貨幣価値に換算する)こととされています。

特別受益がある場合の具体的相続分の計算式

知っておきたい相続問題のポイント
  • 亡くなったときの遺産に特別受益を加えたものが相続財産になる
  • 被相続人は持ち戻し免除の意思表示をすることができる

どういうものが特別受益にあたるのかだいたいイメージできましたが、特別受益がある場合に最終的にどれだけ相続するかはどうやって決めるのですか?

被相続人が相続開始時に有していた遺産に特別受益にあたる生前贈与の価額を加算したものを相続財産とし、それに法定相続分をかけた額から特別受益の価額を差し引いた額が、特別受益を受けた者の相続分になります。 ただし、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていたときは、このような処理を行わず、原則通り相続開始時の遺産が相続財産となります。

「特別受益」がある場合の「持ち戻し」とは?

特別受益があるときは、「被相続人が相続開始のときにおいて有した遺産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし」(1.で解説した通り、これを持ち戻しといいます)、法定相続分の「規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」とされています(民法903条1項)。 持ち戻しの対象が生前贈与に限られているのは、遺贈の対象となる遺産は相続開始時の遺産に含まれているからです。

特別受益がある場合の具体的相続分の計算例

被相続人Aの相続人は子どもにあたるBとCの2名であり、Aの相続開始時の遺産は3500万円、BはAから生前に生計の資本として1500万円の贈与を受けており、CはAから遺言書により1000万円の遺贈を受けることになったとします。 まず、Aの相続開始時の遺産3500万円に特別受益にあたる贈与1500万円を加算した5000万円が相続財産になります。 BとCはどちらもAの子どもですから、法定相続分は各自1/2になります。

したがって、Bの具体的な相続分は、 5000万円(相続財産)×1/2-1500万円(特別受益)=1000万円 となります。 また、Cの具体的な相続分は、 5000万円(相続財産)×1/2-1000万円(特別受益)=1500万円 となります。 Cはこれに加えて遺言書による遺贈で1000万円を取得しています。

そうすると、BもCも特別受益と具体的相続分を合わせれば2500万円ずつ取得することになり、BとCの公平が図られているのです。 なお、特別受益の額が大きい場合、計算によって算定した具体的相続分がマイナスになることがありえますが、マイナスを返す(マイナス分を他の相続人に支払う)必要はないとされています。

例えば、上の例でBが4500万円の贈与を受けていた場合、BとCの具体的相続分は計算上 B:(3500万円+4500万円)×1/2-4500万円=-500万円 となりますが、Bは相続分がなくなるだけで500万円を補填する必要はありません。結果的に、Cが3500万円を相続して終わりということになります。

特別受益の持ち戻しの免除について

被相続人が民法903条1項の規定と異なった意思表示をしたときは、その意思に従うとされています(民法903条3項)。 したがって、被相続人が持ち戻しを免除する意思表示をしたときは、特別受益を受けた者は、その利益を保持できることになります。ただし、特別受益にあたる贈与などにより、他の相続人の遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求は受ける可能性がある、とするのが一般的な考え方です。 持ち戻し免除の意思表示の形式は特に定められていません。 明示の意思表示に限らず、黙示の意思表示であっても構わないとされていますが、どのような場合に持ち戻し免除の黙示の意思表示があったとみるかは難しい問題です。 なお、2019年に施行された改正民法によって、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたときは、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました(民法903条4項)。

特別受益を主張する方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 特別受益についての証拠が必要になる
  • 協議で合意ができないときは家庭裁判所の手続を利用する

父から妹への贈与は特別受益にあたるのではないかと思っているのですが、特別受益は具体的にどのように主張すればいいのでしょうか?

特別受益に関する証拠を集めたうえで、相続人の間で遺産分割協議をします。協議をしても合意ができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをします。それでも合意ができないときは、家庭裁判所の審判で最終的な結論が下されることになります。

特別受益があったことの証拠を集める必要がある

特別受益を主張するのは、通常は「他の相続人に特別受益がある(だから自分の方が多く相続すべきだ)」と主張する場面です。 そうなると、他の相続人が特別受益を受けたことをすんなりと認めるとは限りませんので、特別受益に関する証拠を集めておく必要があります。 特別受益に関する証拠としては、贈与に関する証拠(契約書、預貯金口座の通帳・取引明細、不動産の全部事項証明書など)や贈与の価額に関する証拠(不動産の固定資産評価証明書・査定書、貨幣価値の変動に関する資料など)が考えられます。

遺産分割協議での特別受益の主張

まずは相続人の間で遺産分割協議を行い、その中で証拠を示して特別受益についての主張をすることになります。 特別受益を考慮したうえで遺産の分割方法について合意ができれば、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割調停での特別受益の主張

遺産分割協議がまとまらず、合意ができない場合、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをし、そこで特別受益の主張をすることになります。 調停とは、裁判所の調停委員を介して話し合いを行うことをいいます。 ここで特別受益をふまえた遺産分割の合意ができれば、調停成立となり、事件は終了します。

遺産分割審判での特別受益の主張

調停で話し合いをしても合意ができない場合、調停は不成立となり、審判という手続に自動的に移行します。 審判では、裁判所が特別受益の有無等を考慮したうえで遺産の分割方法を判断します。裁判所の判断に不服がある場合には、高等裁判所に不服申立て(抗告といいます)をすることができます。 このように、特別受益については遺産分割の調停、審判の中で判断されることになっており、特別受益があることの確認を求める民事訴訟などはできないとされています。

特別受益を考慮しない場合について解説

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続人が一人しかいない場合には特別受益を考慮しない
  • 受益者が相続放棄をした場合には特別受益を考慮しない
  • 相続財産がマイナスの場合には特別受益を考慮しない

特別受益は常に問題となるのでしょうか。

いいえ、特別受益を考慮しない場合がありますので確認しましょう。

ここまで特別受益についてお伝えしてきましたが、生前贈与等を受けていたにもかかわらず特別受益を考慮しない場合もあります。

相続人が一人しかいない場合

特別受益は、複数の相続人で共同相続をする際に、相続人の一人が利益を得ているものを調整するための規定です。 そのため、そもそも相続人が一人しかいない場合には、相続人の間で調整を行う必要がありません。 そのため、相続人が一人しかない場合には、特別受益は考慮しません。

受益者が相続放棄をした場合

特別受益は、生前贈与等を受けた方が、相続する額を少なくして、共同相続人の間で調整をはかろうとするものです。 そのため、その方が相続放棄をした場合には、特別受益を考慮する必要はありません。 そのため、特別受益を受けた方が相続放棄をした場合には、特別受益は考慮しません。 なお、特別受益を受けた方が死亡・相続欠格・相続人の廃除などの場合には、代襲相続が発生します。 このときに代襲相続人は、特別受益を受けた相続人の地位に基づいて相続するので、特別受益は考慮します。

相続財産がマイナスの場合

特別受益は、遺産分割する遺産がある場合に問題となります。 しかし、相続財産がマイナスの場合には、誰に多く配分して・誰に少なく…という問題は生じません。 そのため、相続財産がマイナスの場合にも、特別受益は考慮しません。

他の相続人が「持ち戻し」を主張しない場合

明らかに特別受益があったとしても、他の相続人が持ち戻しを主張しない場合もあります。 特別受益によって不利益になっている方が主張するための制度なので、特別受益の持ち戻しは必ずしなければならないのではなく、持ち戻しを主張されない場合にはそのまま遺産分割を進めて構いません。

特別受益で揉めないためのポイント

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 持ち戻し免除の意思表示を行っておく
  • 特別受益に関する根拠にそって交渉を行い感情的な対立にならないように配慮する

特別受益のせいで揉めないようにするためにはどうすればいいでしょうか。

きちんと持ち戻し免除の意思表示をしておくのが確実です。

特別受益のせいで揉めないようにするには次のような方法を検討しましょう。

持ち戻し免除の意思表示をしておく

上述のように特別受益がある場合でも持ち戻し免除の意思表示がされていると、特別受益の持ち戻しは行われません。 もちろん生前に特別受益を受けている方に対して良くない感情を持つ可能性自体は否定できません。 しかし、特別受益の存否・額で揉めることがなくなるため、トラブルの可能性は非常に低くなります。 特別受益にあたるような生前贈与・遺贈があるにもあっかわらず、持ち戻し免除をした理由を遺言書の付言事項やエンディングノートにきちんと記載することによって、さらにトラブルになる可能性を低くできます。

特別受益を主張するときは根拠をきちんと揃える

相続人側として、特別受益を受けている他の相続人に対して特別受益の主張をする際には、できるかぎり主張をする根拠をきちんと揃えるようにしましょう。 何らの根拠もなく、特別受益について主張すると、相手も態度を硬化させてくるばかりか、どこでお互い妥協できるかのラインが見えない状態で言い争いに発展する可能性があります。 例えば自動車の生前贈与を受けているときに、その車の中古に実勢価格を調べて相手に提示すると、相手もあからさまに否定しづらいものです。 特別受益を主張するときは根拠をきちんと揃えて冷静に話し合うようにしましょう。

まとめ

特別受益について解説しましたが、参考になったでしょうか? 特別受益をめぐっては、そもそも特別受益にあたるのかといった判断をする必要があります。また、仮に特別受益にあたるとしてもその価額をどう評価するのかといった問題があり、専門的な知識がないとなかなか判断できません。 特別受益についてお悩みの場合は、相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめいたします。

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