
- 遺言書があれば長男だけが相続することができる
- 他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができる
- 遺言書がなければを防ぐことができる
【Cross Talk 】遺産を独り占めすることができる?
父が亡くなって兄弟で相続することになったのですが、兄が遺産を独り占めしようとしています。今どき長男だけが遺産を相続するなんておかしくないですか?
そうですね。お父さんが遺言書を残していれば長男に全ての遺産を相続させることができますが、その場合でも一定の範囲の相続人には遺留分という最低限の権利が認められるので、長男が全ての遺産を相続した場合,長男に対して金銭の支払いを請求することができます。遺言書がなければ法律で定められた割合で相続するのが原則ですから、長男が独断で独り占めすることはできません。
独り占めはできないんですね!安心しました。
家業を継いだ長男など、一部の相続人が遺産を独り占めしようしてトラブルになることがあります。 今回は、一部の相続人が遺産を独占することができるのか、トラブルが起こってしまったらどうすればいいのかといったことについて、詳しく解説いたします。
遺言書で長男のみに相続させるとした場合のトラブル

- 遺言書で長男だけが相続することができる
- 他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができる
兄が遺産を全て独り占めしようとしているのですが、兄が遺産の全てを相続することは可能なんでしょうか…?
被相続人が遺言書を作成していれば長男だけが遺産を全て相続することができます。ただし、一定の範囲の相続人には、遺留分という相続で最低限の財産を得られる権利が保障されており、この権利を侵害された場合には金銭の支払いを請求できます。
遺言書で長男のみが相続することも可能
被相続人は、遺言書を作成することで自分の死後,自己の財産を自由に処分することができます。これを遺言自由の原則と言います。 したがって、被相続人が長男に全ての財産を相続させるという内容の遺言書を作成していた場合、遺言書どおり長男だけが被相続人の財産を相続することになります。他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができる
遺言自由の原則は被相続人の意思を尊重するという観点から認められているものですが、他方で残された相続人の生活保障や被相続人の財産の維持形成に貢献した相続人に対する潜在的持分の清算という相続制度全体の観点から、遺言自由の原則は一部制限されています。その制限が、相続人の「遺留分」です。遺留分とは、相続人が相続によって最低限の財産を得られる権利のことで、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が保障されています(民法1042条)。 被相続人がした生前贈与や遺言書によって遺留分を侵害された場合(遺留分を下回る財産しか得られなかった場合)、遺留分を侵害された相続人は、生前贈与された人や遺産を受け取った人に対して、遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができます(民法1046条)。これを遺留分侵害額請求といいます。したがって、長男だけに相続させる遺言書があった場合、長男以外の相続人(被相続人の兄弟姉妹以外)は,長男に対して遺留分侵害額請求をすることができます。
遺言書の無効を主張して訴訟することも可能
長男だけに相続させるなど、相続人の間に大きな不均衡が生じるような遺言書がある場合、遺言書によって不利な扱いを受けた相続人が、遺言書が本当に被相続人の意思によるものかと疑問を持つことが少なくありません。そのような場合、他の相続人は、遺言書は偽造されたものである、あるいは被相続人は認知症で遺言書を作成する能力がなかったなどの理由から無効であるとして、訴訟を起こすことも可能です。遺産分割で長男だけが相続すると主張した場合に発生するトラブル

- 遺産分割で独り占めを主張すると協議がまとまらない
- 家庭裁判所の調停・審判では独り占めできない
遺言書がないのに長男が遺産を独り占めすると言い出したらどうなりますか?
遺言書がなければ相続人の話し合いで遺産の分け方を決めることになります。独り占めしようとする相続人がいれば話し合いはまとまらないでしょうね。その場合、家庭裁判所の調停や審判という手続きを利用することになりますが、裁判所の手続きで独り占めが認められることはまずありません。
他の相続人の同意が得られず遺産分割がすすまない
遺言書がない場合や遺言書で相続分(相続する割合)しか決められていない場合、相続人全員の話し合いで遺産の分け方を決めなければなりません。これを遺産分割といいます。 民法は、遺言書がない場合に相続人が遺産を相続する割合を定めています。これを法定相続分といいます。この法定相続分を基に、遺産の分け方について相続人の間で話し合いをするのです。 遺言書がないにもかかわらず長男が自分だけが相続すると主張した場合、通常他の相続人全員がそれで良い、と承諾することは稀でしょう。そのため遺産分割協議が進展せず、遺産の分け方を決めることができなくなってしまいます。調停・審判では法定相続分が基準
そこで、遺産分割について相続人の間で協議がまとまらない場合、各相続人は遺産の分割の話し合いを家庭裁判所で行うことができます(民法907条2項)。 家庭裁判所において遺産を分割するための手続きには、調停と審判の2種類があります。調停は、裁判官と調停委員で構成される調停委員会が当事者の間に入り、裁判所において話し合いをするというものです。当事者間で合意ができれば遺産をどのように分けても良いのですが、長男だけが遺産を相続するという内容で他の相続人が同意することは稀でしょう。調停で合意ができない場合、調停は不成立となり、審判に移行します。
審判では、最終的に裁判官が遺産の分け方を決めます(当事者間の合意は必要ありません)。その際、分け方の基準となるのは法定相続分ですから、長男だけが相続をするという分け方になることはまずありません。 このように、遺言書がないのに長男が自分だけが相続すると主張したとしても、その主張が認められることはないのです。遺産を独り占めされてしまった場合にすべきこと

- 遺産を独り占めされてしまった場合にはまず被相続人の銀行口座を凍結
- 使い込まれた分を調査して取り戻す
相続人の一人が遺産を独り占めしようとしているような場合にはどうすればいいでしょうか。
銀行に被相続人が亡くなったことを連絡すれば、銀行口座が凍結します。そのため、すぐに銀行に連絡をしましょう。そのうえで,使い込まれてしまった分を調査して、取り戻す手続きをとることになります。
相続人の一人が遺産を独り占めしたような場合では、どう対応をすべきでしょうか。
被相続人の銀行口座を凍結する
まずは被相続人の銀行口座を凍結しましょう。 被相続人が亡くなったことを銀行が知った場合には、権利者以外からの引き出しに応じないためにも、預貯金口座を凍結します。 しかし、銀行が亡くなったことをシステムや通知を受けて知るわけではないので、銀行に被相続人が亡くなったことを知らなければ凍結がされません。 キャッシュカードを持っていて、暗証番号を知っているような相続人がいる場合、速やかに凍結しなければ、口座のお金を独り占めされてしまう可能性があります。 そのため,被相続人が亡くなったら,すぐに銀行に被相続人が亡くなったことを連絡しましょう。 なお,場合によっては、被相続人死亡の戸籍謄本・住民票の除票などを要求されることがあります。取引履歴を調べて使い込みの有無を判断する
銀行の通帳を確認して死亡日以後に引き出された金銭がないかを調べましょう。銀行の通帳が確認できなければ,銀行に問い合わせて取引履歴を開示してもらうこともできます(開示を求めてから過去10年分に限られます。)。 また、自宅にある現金や貴金属などの高級品が残っているかも確認してみましょう。使い込まれた分を取り戻すために話し合う
使い込まれた分を取り戻しましょう。 単に使い込んだ旨を指摘するのではなく、・その根拠
話し合いで解決できない場合は弁護士に相談する
話し合いで解決できない場合には、訴訟や相手の財産の保全などの必要が発生します。 手続きはスピーディーに行う必要があり、民事訴訟・民事保全法の知識や、裁判所との対応なども発生します。 なるべく早い段階で弁護士に相談するのが良いでしょう。遺産の独り占めを弁護士に依頼するメリット

- 遺産の独り占めをされた場合に弁護士に依頼するメリット
- 法律面でのサポートのほかに、鋭く対立しやすい交渉を任せられる
遺産を独り占めされたときに、弁護士に依頼するメリットにはどのようなものがありますか?
弁護士に依頼するメリットには法的なサポートはもちろん、使い込みをするような相続人との交渉は鋭く対立することが予想されるので、その交渉をまかせることができ精神的に楽であるというメリットがあります。
遺産を独り占めされたときに、弁護士に依頼することには次のようなメリットがあります。
遺産分割協議での交渉を任せられる
遺産を独り占めする相手との遺産分割協議の交渉を任せられます。 遺産を独り占めする相手がいるような場合、遺産分割の対象となる遺産の額や、使い込んだ分の取り戻し等を交渉したうえで,遺産分割協議をまとめる必要があります。遺産を独り占めするような人と交渉をするわけですから、お互いに鋭い対立になりがちで、精神的な負担は免れませんが,弁護士に依頼すると、弁護士が代理人として交渉するため面と向かって交渉をする必要はなく,精神的な負担がなく弁護士が交渉をしてくれます。
遺産分割協議書の作成や相続手続きがスムーズになる
遺産分割協議がまとまらない場合に調停・審判をする場合はもちろん、遺産分割協議がまとまった際の遺産分割協議書の作成や、その後の相続手続きについてまで依頼をすれば、スムーズに手続きを進めることが可能です。遺産を独り占めされないために事前にしておくべきこと

- 遺産を独り占めされないための方法
- 法的な方法としては遺言書を作成しておくこと
遺産を誰か一人が独り占めしないために、被相続人となる人が事前におこなっておくことはありますか?
家族の関係を良好に保つ・普段から相続について話し合っておく、などは有効でしょう。法的な方法としては遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺産を独り占めされないために事前にしておくべきこととしては、
・家族の関係を良好にする
・遺言書を作成する
まとめ
遺言書がなければ長男が遺産を独り占めすることはできませんし、遺言書があっても他の相続人は遺留分侵害額請求をすることができるので、長男が何の負担もなしに遺産を独占することはできません。 他の相続人が遺産を独り占めしようとしている場合には、きちんと自分の権利を主張する必要があります。ご自分で対応するのが難しい場合には、相続に詳しい弁護士にご相談するのが良いでしょう。

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