農地の相続放棄と相続した農地を手放す方法を解説
ざっくりポイント
  • 相続放棄は農地だけではなく被相続人の全ての遺産を放棄する
  • 農地以外に相続したい遺産があるケースでは相続後に手放す
  • 農地は売却・賃貸・転用する場合許可が必要
  • 目次

    【Cross Talk 】農地の相続を希望する相続人がいない時にはどうしたら良いのでしょうか?

    農家だった父が亡くなり遺産に農地がありますが、相続人に農業をしている者がおらず全員困り果てています。相続放棄は可能でしょうか?

    相続放棄は可能です。ただし被相続人の全ての遺産を放棄することになるので、他の遺産も含めて検討する必要があります。一緒に確認していきましょう。

    よろしくお願いします。

    農地の相続を希望していない場合は、相続放棄・相続後に手放すなどの対処法があります。

    被相続人(亡くなった方)が農地を残して亡くなり相続人が誰も農地相続を希望していないケースでは、相続放棄や相続した後に売却・転用するなどの方法があります。しかし相続放棄は被相続人の遺産全てを放棄しなければならず、他方、売却や転用には許可が必要となります。今回は農地を継ぎたくない場合の対処法を解説していきます。

    農地を継ぎたくない場合に相続放棄はできる?

    知っておきたい相続問題のポイント
    • 相続放棄では被相続人の全ての遺産を放棄するため、他の遺産を含めた検討が必要
    • 相続人全員が放棄した後も管理義務は残る

    農地を継ぎたくない場合に相続放棄はできますか?

    可能ですが、被相続人の全ての遺産を放棄することになり他の相続人にも影響があります。慎重に検討しましょう。

    相続放棄は何をするのか?

    相続放棄とは、被相続人の全ての遺産を放棄する行為です。 被相続人が亡くなった事を知った日から3ヶ月以内に被相続人の最後の住所にある家庭裁判所に申立てを行います。 また、不動産は分割や相続後の管理が難しく、遺産分割でトラブルになるため、相続を放棄する事例が多い傾向にあります。

    以前は「自身も農家だから農地を継ぐ」というケースが一般的でしたが、農家は減少傾向にあり「親は農家だけど子どもはサラリーマン」という世帯も少なくありません。

    そのため「自身は農家でないので農地を相続したくない」というケースが増えています。

    他の遺産も含めて相続しないのであれば相続放棄は可能

    相続放棄は、被相続人の全ての遺産を放棄することになります。 そのため、他の遺産も相続しない場合、遺産を引き継ぎたくない場合には相続放棄を選ぶ方が多いです。 他にプラスの遺産があったとしても併せて放棄する事になってしまいますので慎重に検討しましょう。 また、相続放棄により他の相続人に影響を及ぼします。

    相続放棄をしたあとの所有権

    相続放棄をすると、放棄した者は相続に関して初めから「相続人とならなかったもの」とみなされ、他の相続人の順位や相続分に影響を及ぼします。
    相続の順位 被相続人との関係
    常に相続人となる ・配偶者
    第1順位 ・子ども
    ・亡くなっている場合は孫
    第2順位
    第1順位の人がいないとき相続人となる
    ・母
    ・亡くなっている場合は祖父母
    第3順位
    第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人となる
    ・弟姉妹
    ・亡くなっている場合は甥
    ・姪
    例えば被相続人に子どもがおり相続放棄をした場合、父母が相続することになります。 相続人全員が相続放棄をした農地は「相続人不存在」という位置づけとなります。

    相続放棄をしたあとの管理義務

    相続放棄をした後の管理義務は他の相続人が負うことになります。 しかし他の相続人がいない時、全員が相続放棄を行った時は相続を放棄した者に管理義務が残ります。
    民法940条 相続の放棄をした者による管理
    「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
    この場合、自身で管理を行うか、もしくは「相続財産管理人」を家庭裁判所に申立て、弁護士・司法書士等の専門職を選任してもらい、管理を任せることになります。

    農地だけを相続放棄することはできない

    遺産に農地があり受け継ぎたくない場合、農地のみを相続放棄する事はできません。 農地以外の遺産を相続するメリットと農地を相続するデメリット、相続放棄を行った後の他の相続人への影響や管理義務を考慮し判断しましょう。

    農地を相続したあと農地を手放す方法

    知っておきたい相続問題のポイント
    • 農地を相続する流れ
    • 農地を相続する際は農業委員会に届け出る。売却・賃貸・転用は許可が必要

    他の遺産を相続したいので相続した後に、農地を手放すことを考えています。相続の流れを教えてください。

    相続人を決めて相続登記を行います。農地の場合、農業委員会にも届け出が必要となり、売却・転用・賃貸を行う時は農地法に基づく許可を得ることになります。

    農地の相続人を決める

    農地を相続した後に手放す際には、まず農地の相続人を決めます。
    手放すまでとはいえ、相続人は農地の所有者となり農地に関する管理義務を負う事になります。

    農地を相続する場合、相続登記、農業委員会への届け出の2つの手続きが必要となります。
    相続による所有権移転登記(相続登記)は、必要書類を準備し法務局の窓口へ持参・郵送・オンラインの3つの方法から選び申請します。
    申請の書類は被相続人と相続人の関係や、遺言書・遺産分割協議書といった相続の原因証書により異なります。

    例えば遺産分割協議書で被相続人の子どもが相続する際には、以下の書類が必要です。

    ・登記申請書
    ・遺産分割協議書
    ・遺産分割協議書に推された印の印鑑登録証明書全て
    ・申告者全員の住民票もしくは戸籍の附票
    ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
    ・法定相続人全員の現在の戸籍謄本
    登記の手続きは司法書士へ代行を依頼する事も可能です。

    登記の手続きと共に自治体の農業委員会または農業担当課に届け出を行いましょう。
    届け出を行わないことで10万円以下の過料を科されることがありますので、早急に届け出る事をおすすめします。

    農地についての法律制限

    農地を相続した後に手放す方法としては、国・地方自治体に寄付もしくは売却するという2つの方法があります。

    寄付は国が「行政目的に提供する土地として使用できる」と判断した場合に受け付けられ、行政目的に使用できない土地はコストの観点から受け入れられません。
    各地方自治体でも相談を受け付けていますので、役所に相談してみるのも良いでしょう。

    相続した農地の売却・賃貸を行う際には、農地の所在を管轄する自治体の農業委員会の許可(農地法3条)が必要となります。
    土地にはそれぞれ用途(使い道)が登記事項証明書に記載されており、住宅用地(宅地)といった農地以外の用途で売却する際には農地法4条による「転用許可」が必要となります。一時的な転用も含みます。
    許可申請書と必要書類を添付し、農地の所在する地方自治体の農業委員会を通して都道府県知事等に提出し許可を受けなければなりません。

    ただし、市街化区域内という都市化を進めたいエリアにある農地はあらかじめ自治体の農業委員会に届け出をすれば、許可は不要です(農地法5条1項7号)。

    許可を受けずに転用を行った場合には都道府県知事から原状回復・工事の停止などの措置の命令が下される可能性があります。

    地法3条の許可:使う人が変わる場合
    -有者が変わった時には地元の農業委員会の許可が必要→農業委員会に届出を出す
    農地法4条の許可:用途が変わる場合 -地以外の土地として売却する場合は都道府県知事の許可が必要→農業委員会に届出を出す

    まとめ

    このページでは、農地の相続を希望していない場合の相続放棄や、相続後に手放すなどの対処法について解説しました。 農地を相続したくない場合は、相続放棄を行う事で相続せずにすみますが他の遺産も相続できなくなってしまいます。相続放棄を迷っている方や農地相続でお困りの場合は、弁護士への相談をおすすめします。

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    この記事の監修者

    弁護士 手柴 正行第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 法教育委員会委員
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