
- 葬儀費用や香典返しの費用は相続財産ではない
- 葬儀費用は誰が支払うのか
- 相続放棄・相続税との関係
【Cross Talk】葬儀費用・香典返しはどうすればいいの?
先日父が亡くなり、母と私と弟で相続をすることになりました。父は交友関係が非常に広かったこともあり、弔問客もかなり多かったので、多額の葬儀費用・香典返しが必要となります。このお金については誰が支払うのでしょうか。相続の手続とはどのような関係にありますか?
誰という決まりはありません。誰かが立て替えておいて、あとで費用負担について話し合うのが一般的のようです。相続の手続との関係について確認しましょう。
お願いします。
葬儀をするときには葬儀費用・香典返しという費用が発生します。葬儀は生前に被相続人が用意していない限り、亡くなった後に申し込むことがほとんどなので、被相続人に支払義務があって、それを相続人が相続をするというものではありません。ただ、相続税の申告上は、葬儀費用は葬儀に関連して発生する費用として考慮されることはあります。葬儀費用・香典返しについての法律知識について確認をしましょう。
葬儀費用や香典、香典返しの費用は相続財産ではない

- 相続財産とは
- 葬儀費用・香典・香典返しの費用は相続財産にあたらない
葬儀費用、香典や香典返しのための費用は相続される財産ですか?
いいえ。相続財産にはあたりません。詳しく確認しましょう。
葬儀をする際には、葬儀自体の費用や、弔問客にいただく香典、そのお返しである香典返しが発生します。 これらは相続財産にあたるのでしょうか。
相続財産とは?
まず、相続財産とは何かを確認しましょう。 相続財産は被相続人が死亡時に有していた財産で、家・土地・預貯金などの積極財産(プラスの財産)はもちろんのこと、借金・買掛金などのマイナスの財産も含まれます。葬儀費用や香典返しの費用は被相続人死亡後に生じる債務
葬儀は、亡くなった人が生前に用意をしていない限り、遺族が業者に手配をして発生する費用になります。 このときには既に被相続人は亡くなっているので、契約の主体にはなりません。 香典返しは、香典をいただいた人に対して行う贈与のようなものと考えられるので、同じく被相続人が負担するものではありません。香典は被相続人死亡後の贈与契約によって生じるもの
弔問客が渡す香典は、亡くなった被相続人に対して渡すものという意識があるかもしれません。 しかし、やはり被相続人は既に亡くなっており、贈与を受けることができなくなっているので、被相続人の相続財産にはなりません。 香典は喪主に対する贈与あるいは遺族全員に対する贈与と扱われます。 以上から、葬儀費用、香典や香典返しは、相続財産にあたりません。葬儀費用は誰が支払うの?

- 葬儀費用についての法律上のルールはない
- 葬儀費用の支払いについての方法
葬儀費用は誰が支払わなければならないのでしょうか。
法律上は誰が支払わなければならないというルールはありません。いくつかパターンがあるのでお伝えします。
葬儀費用は、葬儀の契約をするときに誰が契約者になるかによって支払義務者が決まり、一般的には契約者である喪主が支払うのが一般的です。 そして、誰が葬儀の契約をしなければならないという法律があるわけではありませんので、契約者は自由に決定することが可能です。
葬儀費用を支払う人を決めるのはトラブルになりやすい
葬儀費用を誰か一人だけに支払わせるというのは、トラブルになりやすいので避けるべきです。 上述した通り、葬儀費用は相続財産には含まれません。 葬儀費用を一人に負担させて、相続は別…というのは、負担をする方にとっては大いに不満が残る原因となります。相続財産から支払うことは、預貯金口座が凍結されてしまい原則できない
では、葬儀費用を被相続人の相続財産から下ろして、それで支払えば良い、という考え方もできます。 しかし、被相続人が亡くなったことを金融機関が確認すると、預貯金口座は凍結されることになり、後述する例外の場合以外は引き出すことができません。誰かが一旦立て替えて、相続分に応じて事後的に葬儀費用を分割する方法
そのため、一旦誰かが立て替えをして、香典・香典返しなどと一緒に精算をしたうえで、足が出た分を後から相続人で話しあって負担するという方法も考えられます。 この方法はスムーズではあるのですが、誰かが一旦葬儀の費用を立て替えられる状況でないと難しいといえます。 なお、相続人の間で合意すれば、誰かが立て替えた葬儀費用について遺産分割の中で考慮して、実質的に被相続人の財産から支払ったことにすることも可能です。預貯金の払い戻し制度を利用する
上述した不都合があることから、相続法の改正により2019年7月1日から施行された、凍結された預貯金の仮払いの制度を利用して、お金を引き出すことが可能となりました。 これにより、預金が凍結されたことによって生活費の捻出が難しくなったような場合や、葬儀費用の支出に困るような場合などに、法律で定められた限度額はありますが、預貯金を引き出すことができるようになりました。葬儀費用について遺産分割協議する際の注意点

- 葬儀費用について支払った額を記録し、領収書など証拠に残るものは必ず保管しておく
- 葬儀費用に関する遺産分割協議書中の記載例
葬儀費用について、遺産分割協議の内容に含む場合にはどのような注意が必要ですか?
葬儀費用としていくら支払ったかをきちんと記録しておき、証拠などをしっかり残しておくことが必要ですね。遺産分割協議書の中でどのように記載すべきかも併せて確認しましょう。
葬儀費用については、相続財産には含まれないものの、トラブル防止の観点から、あえて遺産分割協議書に記載することは可能で、実際に記載されることも多いです。 この場合にはどのような注意が必要でしょうか。
葬儀費用を記録しておく
まず、葬儀にかかった費用を記録し、できれば証拠になるものを保管しておきましょう。 このときに、葬儀や仕出しなどの領収書が明確に出るものがある場合には、領収書を必ず取得しておきます。 僧侶に対するお車代・お布施のようなものは領収書が出ないので、適切な相場をメモして取っておくようにしましょう。預貯金や現金などの資産で調整する
相続財産の中に預貯金や現金がある場合には、遺産分割協議の内容として、葬儀費用を支出した人が支出した額の分だけ預貯金や現金を多めに取得する、といった調整も可能です。 このような調整を可能にするためにも、葬儀費用を支出した場合には、どれくらいの額を支出したのか、あとで明示できるように、記録をとっておくようにしましょう。葬儀費用の控除
代償分割をする際には、特定の相続人から他の相続人に対して金銭(代償金)を支払うことになります。 この場合、葬儀費用を支払った相続人が他の相続人に代償金を支払う際に、他の相続人の葬儀費用負担分に相当する金額を一旦支払ってもらった後、他の相続人に対して代償金を支払う、というのは非常に面倒です。 そのため、遺産分割協議書には、本来の代償金に相当する金額から、他の相続人が負担すべき葬儀費用を控除した金額を支払う、と明記するのが良いでしょう。葬儀費用の負担の遺産分割協議書の記載例
遺産分割協議書の記載例は次のようになります。葬儀費用100万円は、Aが80万円・Bが20万円を負担する。
相続放棄と葬儀費用の関係

- 相続放棄と葬儀費用の関係はない
相続放棄をすれば葬儀費用は支払わなくて良いということでしょうか。
相続放棄は、相続放棄をした人を最初から相続人ではなかったとする制度であり、葬儀をどうするかということとは別です。なお、上述した預貯金を引き出すようなことがあれば、単純承認をしたとみなされることもあるので注意をしましょう。
被相続人が多額の債務を抱えていたような場合や、相続争いが発生しており巻き込まれたくないような場合には、相続放棄をすることが考えられます。 相続放棄は、裁判所への申述によって、最初から相続人ではなかったとする制度であり、被相続人の葬儀の契約をするかどうか、葬儀費用は誰が支払うのかという問題とは関係がありません。 そのため、相続放棄をしたら葬儀費用等との関係がなくなるというものでもありません。
なお、先ほど、被相続人の預貯金を仮払いしてもらって葬儀をする方法をお伝えしましたが、このように相続財産を利用する行為をした場合には、単純承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性も生じるので、注意が必要です。
相続税の計算から控除できる費用

- 相続税の計算にあたって葬儀費用は控除できる。香典返しは控除ができない。
- 香典返しは相続税の控除の対象ではない
私たちの相続では相続税も問題になりそうなのですが、何か関係はありますか?
香典返しの費用は対象ではないのですが、葬儀費用は相続税の計算で控除をすることができます。
相続税の計算において、葬儀費用を控除することが可能です。 ここにいう葬儀費用とは、単純に葬儀社に支払う金銭だけではなく、葬儀を行うにあたって必ず発生する費用をいいます。 通夜・告別式で参列者にふるまう飲食費用や、お手伝いをしてもらって人への心付け(社会通念上相当な範囲で)、お布施や戒名料・読経料、火葬・納骨にかかる費用・遺体の運搬に必要な費用、参列者に渡す会葬御礼費用といったものが含まれます。 香典返しや、墓地の購入や借り入れ料、初七日・四十九日法要といったものは含まれません。
まとめ
このページでは、葬儀費用・香典返しの取り扱いについてお伝えしてきました。これらは人が亡くなったときに発生するものですが、相続手続とは別の配慮が必要なもので、争いの火種になる可能性があるものでもあります。 他の相続人とのトラブルが心配な場合には、弁護士に相談してみてください。

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