被相続人に借金があった場合の対処法を詳しく解説します!
ざっくりポイント
  • 借金も相続の対象になる
  • マイナスの財産が多いときは相続放棄・限定承認をする
  • 借金を相続してしまったら債務整理を!
目次

【Cross Talk】借金も相続しないといけないの?

先日、父が亡くなりました。遺品を整理していると、借金の督促状が出てきて、父に借金があることを知りました。父の借金は私が払っていくことになるのでしょうか?

プラスの財産だけではなくマイナスの財産も相続の対象になります。相続した場合には、当然借金を返済しなければなりません。ですから、マイナスの財産の方が多いような場合には、相続放棄等を検討する必要があります。

相続してしまうんですね。相続放棄について詳しく教えてください!

プラス財産とマイナス財産の両方を調べて相続するかどうかを決める!

相続というと、亡くなった方(被相続人といいます)の財産を分けてもらえるという意味で、相続人にとって利益になるものというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。 では、被相続人に財産だけでなく、借金もあった場合はどうなるのでしょうか? 相続人は、自分がしたわけでもない借金を相続することになるのでしょうか?もしそうなら、それを防ぐ手段はないのでしょうか? 今回は、被相続人に借金があった場合の相続の扱いや対処方法について解説します。

借金も相続する

知っておきたい相続問題のポイント
  • プラスの財産もマイナスの財産も相続する
  • 一身専属的な権利義務は例外

亡くなった親に借金があった場合、子どもが借金を相続することになるのですか?

相続人は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続するので、借金も相続することになります。

民法は、相続の一般的な効力として、相続人は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています(民法896条本文)。 承継の対象には「義務」も含まれていることから、借金(貸金を返還する義務)も承継されることになります。 わかりやすくいえば、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も原則としてすべてが相続の対象になる、ということです。

ただし、「被相続人の一身に属したもの」は例外的に承継されません(民法896条ただし書き)。一身に専属するものとは、特定の人だけが使うことができる権利や、特定の人だけが負う債務です。

たとえば、ある資産家が高名な画家に自分の肖像画を描くことを依頼した場合、画家は肖像画を描く義務を負いますが、肖像画の完成前に画家が亡くなったからといって、画家の配偶者や子どもが肖像画を完成させる義務を承継するわけではない、といえばイメージしやすいでしょうか。

借金を相続した場合の対処法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 3ヶ月以内にプラス財産とマイナス財産の額を確定する
  • マイナスが多い場合には相続放棄を検討する

父に借金があるらしいことはわかりましたが、他にも借り入れがないか不安です。これからどうしたらいいでしょうか?

相続が発生したら、まずプラスの財産とマイナスの財産の両方を調査し、その額を確定させる必要があります。 そのうえで、マイナス財産の方が多い場合には、相続放棄をするといいでしょう。これらの作業は、相続が発生したことを知った時から3ヶ月以内にしなければならないことに注意が必要です。

判断するための期間は短い

相続人は、被相続人の一切の権利義務を承継するのが原則ですが、相続によって得た財産の限度で債務を弁済することを留保して相続すること(限定承認)や、自分に相続の効果が発生することを拒否すること(相続放棄)もできます。 ただし、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について承認、限定承認または相続放棄をしなければなりません(民法915条1項本文)。 もしこの期間内に限定承認も相続放棄もしなかったときは、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。 つまり3ヶ月以内に、限定承認や相続放棄をするかを決め、する場合には裁判所への書類の提出等を終えなければならないということです。 相続放棄をするかどうか判断をする期間は短いということに注意が必要です。

借金の額を確定する

相続人は、相続の承認または放棄をする前に、相続財産の調査をすることができます(民法915条2項)。 消費者金融やクレジットカード会社、銀行などに対する借金等は、それぞれの業者が加盟する信用情報機関に開示請求することで、債務の有無等を調査することができます。 また、住宅ローンがある場合、団体信用生命保険に加入しているかどうかの確認も必要になります。 団体信用生命保険に加入している場合、住宅ローンの契約者が死亡した場合には保険会社から保険金が支払われ、ローンが完済されます。 したがって、団体信用生命保険に加入している場合には、相続放棄をせずに済むことがあるのです。

プラス財産の額を確定する

借金だけでなく、プラスの財産の調査も必要です。 プラスの財産の主なものは、現金、預貯金、有価証券(株式、国債など)、不動産、自動車などです。 また、被相続人が誰かにお金を貸していた場合のように、債権(この場合は貸金債権)もプラスの財産に含まれます。これらの財産の有無を調べ、プラスの財産の額を確定します。

プラスとマイナスの財産の差額を計算する

プラス財産の額とマイナス財産の額をそれぞれ確定することができれば、その差額を計算します。 差額次第で、相続を単純承認するのか、相続放棄や限定承認をするかを決めることになります。一般的には、差額がマイナスになる場合、相続放棄あるいは限定承認をすることが多いでしょう。

相続放棄する際の注意点を把握する

血族相続人(血のつながっている相続人)は、次の順に相続人となります。

・直系卑属(子、孫、ひ孫など) ・直系尊属(父母、祖父母、総祖父母など) ・兄弟姉妹およびその代襲相続人

先順位に当たる者がいない場合には、後順位の者が相続人になります。 ですから、たとえば第1順位の者が全員相続放棄した場合、第2順位の者が相続人になります。 第2順位の者が相続を希望しないときは相続放棄が必要になり、第2順位の者がすべて相続放棄したときは、第3順位の者が相続人になります。

なお、一度した相続の承認または放棄は、3ヶ月の期間内であっても、撤回することができません(民法919条1項)。 どうしても期間内に調査等が終わりそうにないときは、家庭裁判所に期間の延長を請求することができますので(民法915条1項ただし書き)、焦って相続放棄をしないよう注意してください。

借金を相続した場合の相続放棄の手続

知っておきたい相続問題のポイント
  • 戸籍謄本など必要書類を集める
  • 相続放棄申述書を作成して家庭裁判所に相続放棄の申し立てをする

亡くなった父に借金があったのですが、相続放棄するにはどうすればいいですか?

まず先ほどご説明した財産の調査をします。 その結果、相続放棄をする場合には、戸籍謄本などの必要書類を集め、相続放棄申述書に必要事項を記入して、家庭裁判所に相続放棄の申述(申立て)をします。 しばらくすると家庭裁判所から照会書が送られてくるので、必要事項を記入して返送します。 問題がなければ、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送られてきて、相続放棄の手続は終了します。

被相続人の財産を調査する

相続放棄をするかどうかの判断をするには、被相続人の財産を正確に把握する必要があります。 また、相続放棄をする場合にも、相続放棄申述書に知り得る限りで「相続財産の概要」を記入することになっています。 そのため、まず被相続人の財産を調査することから始める必要があります。

相続放棄に必要な書類を収集・作成する

相続放棄をするには、相続放棄申述書を作成し、必要書類等を添付して管轄の家庭裁判所に提出しなければなりません。 相続放棄申述書のひな型は、裁判所のホームページなどで入手することができます。

家庭裁判所に相続放棄を認めてもらうには、被相続人が死亡したことと、相続放棄の申述(申立て)をした者が相続人に当たることを明らかにする必要があります。 そのため、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本や申述人の戸籍謄本が必要になります。 また、相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所が取り扱うことになっているので、被相続人の住民票除票または戸籍附表も必要になります。

さらに、裁判所に納める費用として、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手も必要です。郵便切手は裁判所によって異なりますので、提出前に管轄の家庭裁判所に確認するといいでしょう。

家庭裁判所に相続放棄の申し立てをする

必要書類の収集、作成ができれば、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述をします。

照会書の返送

相続放棄の申述をしてしばらくたつと、家庭裁判所から照会書と照会書に対する回答書のひな型が送られてきます。

これまで解説したとおり、相続放棄をすると初めから相続人ではなかったことになり、しかも一度した相続放棄を撤回することはできません。 そこで、裁判所は、相続放棄が本当に申述人の意思に基づいて行われたものであるのか、相続財産を把握しているのか、なぜ相続財産を放棄しようと考えたのかなどといった事情を確認するため、照会書を送ってそれに対する回答を求めるのです。

回答書のひな型に必要事項を記入して裁判所に返送しましょう。

相続放棄申述受理証明書の受領

特に問題がなければ、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書という書類が送付されてきます。 これで相続放棄の手続は基本的に終了です。

なお、一般的には申述受理通知書で足りますが、この書面は正式な証明書ではありませんので、債権者に求められた場合など、必要があれば相続放棄申述受理証明書の交付を申請するといいでしょう。

以上の手続は、相続放棄をする本人自身が行うこともできますが、裁判所に提出する必要書類を不備なく集めることも手間ですし、照会書にどのような内容を記載すべきか判断に悩むこともあるかと思います。 弁護士などの専門家に相続放棄手続を依頼すれば、必要書類の準備から裁判所への提出まですべて任せることができ、照会書が自宅に届いた場合に何を記載すべきか、適切なアドバイスも受けることができます。 相続放棄は、初めから相続人ではなかったことになるという重大な効力を発生させる手続なので、手続に不備がないよう、弁護士に依頼することをお勧めします。

借金を相続した場合の限定承認の手続

知っておきたい相続問題のポイント
  • 限定承認は、相続によって得た財産の限度で債務を弁済するもの
  • 手続が複雑で共同相続人全員でする必要があるので、あまり利用されていない

相続財産の調査をしましたが、プラスの財産が多いのか、マイナスの財産が多いのかはっきりしません。借金を背負いたくないので、相続放棄をした方がいいでしょうか?

借金を背負うリスクを避けたいということであれば、限定承認をするという選択肢が考えられます。 ただ、限定承認は相続放棄と違って手続が複雑であることや、共同相続人全員でしなければならないことに注意が必要です。

被相続人の財産を調査しても、債務超過(マイナスの財産が多い)かどうかがはっきりわからないということがありえます。 そのような場合、債務超過の可能性を考慮して相続放棄をすることも考えられますが、その他に限定承認をするという選択肢があります。

限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務及び遺贈を弁済することを留保して相続を承認するというものです。 限定承認をすれば、相続財産は相続人の固有の財産から切り離され、相続財産から債務(借金など)が弁済されることになります。弁済後に残余があれば相続人がそれを取得しますが、債務が残った場合でも相続人は残りの債務を弁済する義務を負いません。

このようにみると、限定承認は大きなメリットがあるように見えますが、実際にはあまり利用されていません。 その理由のひとつは、手続が複雑で負担が大きいということです。 限定承認は、家庭裁判所にその申述をするほか、限定承認をした日から5日以内に、すべての相続債権者・受遺者に対し、限定承認をしたことや2か月を下らない一定期間内に請求の申し出をするよう抗告する等、多くの手続が必要になるのです。 もう一つの理由として、単純承認や相続放棄と異なり、相続人が全員共同してしなければならないとされていることがあげられます(民法923条)。つまり、相続人全員の足並みがそろわなければ限定承認はできないのです。

もし相続放棄できず借金を相続してしまったら

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続放棄も限定承認もしなかった場合、借金を相続することが確定する
  • 返済が難しければ債務整理を

相続放棄も限定承認もしなかった場合、借金はどうなるのですか?

相続を承認したことになりますので、借金を相続することが確定してしまいます。借金を返済していくことが難しい場合には、債務整理を検討することをお勧めします。

3ヶ月以内に相続放棄も限定承認もしなかった場合、相続を単純承認したものとみなされます。 相続を単純承認すれば、一切の権利義務を承継することになりますから、借金も相続します。 そうなると、相続人は、自分の債務として借金を返済していくしかありません。

被相続人から相続したプラスの財産や相続人がもともと持っていた財産を合わせても弁済が難しいときは、債務整理を検討するといいでしょう。 債務整理には、債権者と直接交渉する任意整理のほか、裁判所の手続である自己破産、個人再生があり、それぞれメリット、デメリットが異なります。 債務整理をしたいときは、弁護士に相談をしてご自身にふさわしい手続を選択するようにしましょう。

まとめ

被相続人に借金があった場合の対処法について解説しました。相続財産の調査や相続放棄・限定承認の手続にかけられる時間はそれほどありません。 親族を亡くし、悲しみに暮れるさなかにこれらの事務処理等を行うのは大きな負担になるかもしれません。 ご自身でするのは難しいと感じた方には、相続に詳しい弁護士への相談・依頼を検討されることをお勧めします。

この記事の監修者

弁護士 岩壁 美莉
弁護士 岩壁 美莉第二東京弁護士会 / 東京第二弁護士会 司法修習委員会委員
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