相続人の中に認知症の方がいる場合の遺産分割を知る
ざっくりポイント
  • 認知症を発症している場合の民法の規定の内容を知る
  • 相続が発生した時に相続人の中に認知症の方がいる場合の処理を知る
目次

【Cross Talk】相続人の一人が認知症なので手続きに加えなくても良い!?

先日父が亡くなり、母と私と妹で相続をすることになりました。母は生存してはいますが認知症の症状がひどく、病院で入院をしているという状態です。 父の遺産分割をするのに、母もこういう状態なので、私と妹で手続きを済ませてしまっても問題ないでしょうか。

認知症で意思表示ができないような場合には成年後見人の選任が必要かもしれません。

認知症を患った方が相続人にいる場合の相続手続きを知る

民法は遺産分割などの法律行為を行うについて、正常な判断をすることができることが前提になっています。 そのため認知症を患っており正常な意思表示ができないような場合には成年後見人を選任してもらって代理をしてもらうことになります。成年後見人には親族がなる事も多いのですが、その場合には利益相反行為にならないように注意も必要です。

成年後見制度とは?成年後見制度と任意後見制度について

知っておきたい相続問題のポイント
  • 判断能力が充分でなくなった場合の制度として成年後見制度・任意後見制度がある
  • 認知症になった後では任意後見制度は利用できない

よく認知症などで判断能力がなくなったときの制度として、成年後見や任意後見といったものを耳にしますが、何か関係はありますか?

認知症になってからでは任意後見制度は利用できません。それぞれの制度の概要について知っておきましょう。

成年後見制度と任意後見制度の違い

加齢や認知症によって判断能力が不十分になったときの制度として、成年後見・任意後見というキーワードを耳にする方も多いと思います。 これらの制度についての概要を知っておきましょう。

成年後見制度とは、判断能力が不十分になった人に対して、後見人等をつけて、契約など生活を営むのに必要なサポートをしてもらうものです。 後述もしますが、認知症になってしまうと、契約など正常な判断能力が必要な法律行為を行うことができなくなってしまうので、成年後見制度を利用することになります。 任意後見制度とは、将来加齢や認知症で判断能力が不十分になったときのために、後見人となる人と任意後見契約を結んでおき、判断能力が不十分となった段階で後見人になってもらう制度をいいます。

高齢や認知症等によって判断ができなくなってからでは、自分のサポートをしてくれる人を自分で選ぶということができませんので、そうなる前に契約を結んでおくことができるものです。

認知症の方がいる場合に民法ではどのような規定が置かれているか

知っておきたい相続問題のポイント
  • 認知症の程度によっては契約自体が無効になる
  • 意思表示ができないような状態であれば成年後見人を選任してもらう必要がある

そもそも認知症になった人について何か規定されているのですか?

認知症をはじめとして法律行為をする判断能力を失った人は成年後見人を選任してもらってその人に代理をしてもらうことになっています。

認知症になった場合には法律ではどのような規定が置かれているのでしょうか。

意思表示ができない人の法律行為は取り消される可能性がある

まず、そもそも遺産分割を含む法律行為を行うためには、その行為の意味が分かる必要があります。 認知症の症状が重い場合などその人が行為の意味がわからない場合、遺産分割をしようにも、その意味すらわからない状態といえます。 このような状態の方が一人で行った取引(法律行為)については、意思能力を欠くものとして、無効となる可能性があります。

認知症になっている場合に法律行為をするためには成年後見人、保佐人、補助人をつける

そうすると、認知症になっている人は、一人で法律行為ができないので、その保護のために、民法では一定の利害関係人の家庭裁判所への申立てによって後見開始の審判を行って後見人を選任してもらい、後見人が本人のため代理をしてもらうことで、後見人がきちんと生活できるようにしています(民法第7条・9条)。

そして、認知症の程度によるのですが、民法第7条に規定する「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」という程度になっている場合には後見人がつけられます。 一方、そこまでではないものの民法第11条に規定する「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」という程度であれば同じく保佐人という人がつけられて、民法第13条第1項で規定する重要な法律行為として法定されているものについては保佐人の同意を得る必要があることになっています。

遺産分割は民法第13条第1項6号に規定されていますので、保佐人の同意を得る必要があります。 また、さらに認知症の程度が軽く「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分」である場合には、補助人をつけることができ、民法第13条に規定するものの中で必要とされるものを選んで補助人の同意を得て行う必要がある旨定めることができます(民法第15条、第17条)。

ですので、遺産分割を対象とした場合、同じく補助人の同意や代理が必要になります。 認知症といっても、日常生活に支障をきたす程度の酷い物忘れから、意志疎通ができなくなってしまっているものまで広範なので、必要な手続きを選択して行います。

成年後見人等選任の手続き

成年後見人等の選任に手続きは、条文に規定されている利害関係人が家庭裁判所に申立てをします。 申立てにあたっては、申立書のほかに、本人情報シート、認知症を患った人の診断書、申立手数料、登記手数料、郵便切手、本人の戸籍謄本、登記されていないことの証明書、親族関係図、本人の遺産に関する書類、後見人の候補者の住民票、候補者に関する照会書、などを提出して行います。 診断書などは裁判所のホームページでダウンロードすることができます。

成年後見人制度の注意点

成年後見人を選任する際の注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。 まず、成年後見人の選任には、順調にいけば2ヶ月程度、本人の状態について鑑定が必要となった場合には4ヶ月程度の期間がかかります。 例えば、相続税の申告が必要であるような場合、相続税の申告・納税期限である10ヶ月を目前にあわてて成年後見人の申立てを行ったとすると、間に合わないようなことにもなりかねません。 期限が迫っている手続きがある場合には、早めに手続きを行うようにしましょう。

また、成年後見人に他の相続人を選任した場合、利益相反となるため後見人として代理で遺産分割協議をすることができません(民法826条・民法860条)。 例えば、父・母・子といて、父が亡くなって母・子が共同相続人である場合に、母が認知症だからと子どもが成年後見人になった場合には、子どもは母を代理して遺産分割協議ができないということになります。 この場合には特別代理人を選任して、その人が遺産分割協議をする必要があります。

相続が発生した時に認知症の方が相続人の場合

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続が発生した場合に認知症の相続人がいる場合にはまず成年後見等の利用をする
  • 他の相続人が後見人の場合には利益相反になるため後見監督人を選任する

相続が発生した時に認知症の人が相続人にいる場合の手続きの流れを教えてください。

遺言がある場合と遺言がない場合に分かれます。 遺言がある場合には遺言書の通りに遺産分割をするのが基本になるので、遺言のとおりに手続きが進みます。 遺言がない場合には遺産分割をするのですが、共同相続人が認知症のある相続人の後見人になっているような場合には利益相反となるので後見監督人の選任が必要となります。

相続が発生した時に認知症の方が相続人にいる場合にはどのように相続手続きをすすめていくのでしょうか。

遺言がある場合

まず遺言で相続分の指定をしている場合には、その遺言の内容通りに手続きをすすめます。 後見人等がいない場合には、必要に応じて後見人等を選任してもらったうえで、遺言で指定された遺産に関する手続きを行うことになります。

遺言がない場合

遺言がない場合には遺産について遺産分割協議をするのが基本です。 後見人等がいない場合にはまず後見人等を選任してもらい、後見人等と他の相続人との間で遺産分割協議を行います。 この時に気を付けて欲しいのが、後見人等を誰にするかです。

後見人には近しい親族を選任することが多いのですが、共同相続人の一人が後見人になると、遺産分割協議においては民法第849条により後見監督人を選任してもらったうえで、後見監督人に遺産分割協議をしてもらう必要があります(民法第851条4号)。 なお、保佐人や補助人の場合も同様に保佐監督人、補助監督人の選任が必要です(民法第876条の3、同法第876条の8)

そのため、相続人以外の人を後見人等に選ぶか、相続人を後見人等に選んでおきつつ各監督人を相続に関してだけ選任してもらうか、というどちらかの手続きによる必要があります。

認知症である相続人本人が直接法定相続分で相続する際の注意点

認知症である本人が、成年後見人を選任せずに単独で遺産分割協議に参加した場合にはどうなるのでしょうか。 認知症の程度によるのですが、認知症の程度が重く、契約に必要な意思能力がないと判断できる状態になっている場合には、契約は無効となります。

意思能力の有無については長谷川式認知症スケールを参考に行われることが多く、10点以下であれば意思能力がないと判断される傾向にあります。 ただし、10点以上であっても意思能力がないと判断されているケースがありますので注意しましょう。 もし、意思能力がなく、遺産分割協議が無効であるような場合には、この遺産分割協議書に基づいておこなわれた相続手続きは無効となります。

不動産の場合には、遺産分割協議書を利用してされた登記を抹消し、あらためて成年後見人を選任して遺産分割協議をやりなおす必要があります。

亡くなる前にできる対処法とは

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続人の中に認知症の人患者がいる場合には遺言書を作成しておく
  • 遺言書を作成しておけば遺産分割協議は不要となる

もし相続人に認知症の人がいることを被相続人が把握していた場合、どのようなことができたのでしょうか。

遺産分割協議をしなければならないので成年後見を利用することになるのですが、遺産分割協議が不要な程度にしっかり遺言書を作成しておけば遺産分割協議は不要です。遺言書を作成しておくすることが対処法といえます。

相続人に認知症の患者がいる場合に、生前の対策としては遺言をしておくことが考えられます。 前述したように、遺言書を作成しておくと、遺言書の内容で相続がされるので、遺産分割協議が不要です。 そのため、認知症の患者がいる場合でも、スムーズに相続手続きを行うことが可能です。 この時に、全ての遺産を網羅する形で遺言書を作成しておかないと、遺言の対象外となった遺産については遺産分割協議が必要となるので注意をしましょう。

まとめ

このページでは、相続人の中に認知症を患った人がいる場合の遺産分割についてお伝えしてきました。 認知症を患っている場合にはその症状によって後見人・保佐人・補助人といった人がつくことになり、そのうえで遺産分割協議をする必要があります。 手続きも細かいですし、誰に後見人になってもらうかなどの判断を相続の具体的事情に応じて判断する必要がありますので、弁護士に相談しながら手続きをすすめるようにしてください。

この記事の監修者

弁護士 城田 喜朗第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 犯罪被害者支援委員会委員
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