
- 遺産分割完了前に相続人が死亡して新たな相続が発生することを「数次相続」という。
- 数次相続が発生した場合、新たに亡くなった人の相続人を含めて遺産分割の手続を行う必要がある。
- 相続財産に不動産があるときは「中間省略登記」という手続を利用することで手続を簡略化できる。
【Cross Talk】遺産分割の手続が長期化すると数次相続が発生して相続関係が複雑になり、トラブルに発展しやすくなる。
3か月前に母が90代で他界しました。 父は3年前に死亡しており、私は3人兄弟ですので、母の相続人は私の兄、私、弟の3人です。ところが先月、兄が心筋梗塞で突然倒れてそのまま他界してしまいました。 母が他界して以来、長男として、家のことなどで心労があったのかもしれません。
それはさぞかし大変でしょうね。心よりお悔やみ申し上げます。 ところでお兄様が亡くなった時、お母さまの遺産分割は完了していたのでしょうか?
それが、兄が死亡したのは母の遺産分割が完了する前のことだったのです。 というのも、三男である弟は何年も前から音信不通の状態で、弟と連絡を取る手段を検討しているうちに兄が死亡してしまったのです。 死亡した兄には妻と息子がいます。このように、遺産分割前に相続人が死亡した場合、誰が財産を相続することになるのでしょうか?
そのような状態を「数次相続」といいます。数次相続の場合に相続関係がどうなるのか、具体例を交えてご説明しましょう。
相続人が遺産分割前・中に亡くなった場合の相続人

- 遺産分割手続が完了する前に相続人の1人が死亡してしまい、新たな相続が発生することを「数次相続」という。
- 数次相続が発生したときは、新たに死亡した人の相続人を含めて手続を進めていく必要がある。
母が死亡して兄、私、弟の3人が相続人となり、遺産分割の手続が完了する前に兄が死亡してしまいました。 本来は3分の1ずつ分けるはずでしたが、兄は死亡したことにより相続人としての権利を失なったので、残った私と弟が母の財産を2分の1ずつ相続できる。そう考えてよいのでしょうか?
亡くなったお兄様に奥様やお子様がいらっしゃるのなら、そういうわけにはいきません。この場合は奥様やお子様も含めて遺産分割の手続を進める必要があります。
数次相続とは
父親が死亡した直後に母親が死亡したり、兄が死亡した直後に弟が死亡するなど、相続が発生した直後に相続人が死亡して別の相続が発生することがあります。 また、相続人間での話し合いがまとまらずに調停などに発展して手続が長引いてしまい、その間に相続人が死亡してしまうケースもあります。新たな相続が発生した時点で先に死亡した人の遺産相続が済んでいればいいのですが、遺産分割前に相続人が亡くなった場合は相続関係が複雑になってしまいます。
このように1つ目の相続が開始して遺産分割協議や相続登記などの手続が完了する前に2つ目の相続が発生することを「数次相続(すうじそうぞく)」といい、1つ目の相続を「一次相続」、2つ目を「二次相続」といいます。さらに「三次相続」や「四次相続」が起こる場合もあります。 では、このような場合、どのように相続手続を進めていけばよいのでしょうか。
親が死亡した後にその相続人である子が死亡した場合
例として、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となったが、その直後にBが死亡したケースを考えてみましょう。死亡したBには妻Eと息子Fがいることにします。
Bは遺産分割を受ける前に亡くなってしまいましたが、本来はAが残した遺産のうち3分の1を相続する権利を有していました。もしBが死亡せず母親の遺産を相続していれば、将来Bが死亡したときにEやFがその財産を受け取ることができたかもしれません。 よって、このような場合はCとDだけでなくEとFも含めて遺産分割の手続を進めなければいけないこととされています。
子が死亡した後にその相続人である親が死亡した場合
次に、上の例でBに息子Fがおらず、かつBがAより先に死亡した場合を考えてみましょう。この場合、Bが死亡して母親であるAと妻であるEが相続人となりますが、Bの遺産分割前にAが死亡してしまったとき、Bの遺産はどうなるのでしょうか。
本来、死亡したBの兄弟であるCとDがBの遺産を相続する権利はありません。ところが、CとDは子どもとしてAの財産を相続する権利がありますので、もしAがBの遺産を相続した後に死亡したとしたらCとDは間接的にBの財産を受け取ることができたはずです。 したがって、このような場合には死亡したBの妻であるEだけでなく、CとDも含めて遺産分割の手続を進める必要があります。
相続人が遺産分割前・中に亡くなった場合の相続割合

- 二次相続では、被相続人が一次相続で本来受け取ることができた相続割合を相続人で分け合う。
- 一次相続で本来相続できた相続割合に変更はない。
私と弟だけでなく、他界した兄の妻や子どもが相続手続に関与してくることはわかりました。では、相続割合はどうなるのでしょうか?私が相続できる財産は減ってしまうのでしょうか。
結論からいうと、相談者様の相続割合は減少しません。具体例に沿ってご説明しましょう。
次に、相続分について上の例に基づいてご説明します。 まず、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となったが、その直後にBが死亡し、Bには妻Eと息子Fがいる場合を考えてみましょう。
この場合、CとDの取り分は変わらず、本来Bが相続するはずだった遺産をBの相続人であるEとFで分けることになります。
民法に従えば、B、C、DはAの財産をそれぞれ3分の1ずつ相続できたはずでした。したがって、CとDの相続割合は3分の1のままです。配偶者と子どもの相続割合は2分の1です。したがって、残りの3分の1をEとFで半分ずつ分け、Eが6分の1、Fが6分の1を相続することになります。
次に、Bに息子Fがいない状況でBが死亡し母親であるAと妻であるEが相続人となったが、Bの遺産分割前にAが死亡してしまった場合を考えてみましょう。 Bが死亡した時点での相続割合は、妻であるEは3分の2、母親であるAは3分の1となります。その後、遺産分割前にAが死亡すると、Aの子であるCとDは、Aの遺産を半分ずつ相続することになりますから、本来Aが相続するはずだったBの遺産も半分ずつ分け合うことになります。したがって、相続割合は妻であるEが3分の2、兄弟であるCとDがそれぞれ6分の1となります。
相続人が遺産分割前に亡くなった場合には相続人の相続人が遺産分割をする地位を承継する

- 遺産分割協議が成立するには相続人全員の合意が必要
- 相続人全員の合意がない遺産分割協議は無効となる
- 数次相続が発生した場合には遺産分割協議書の肩書の記載に注意する
相続人や相続割合については理解できました。では、遺産分割の手続は具体的にどうやって進めていけばよいのでしょうか。
二次相続の相続人を含めた全ての人が遺産分割協議書の内容に合意して署名・捺印する必要があります。 相続人全員の合意がないとその遺産分割協議書は無効になりますので、相続人を確定する際には十分に注意が必要です。
手続に不備があると、遺産分割協議の手続をやりなおさなければいけないのですね。 遺産分割協議書の書き方など詳しく教えていただけますでしょうか。
被相続人の遺産をどのように分けるか話し合う手続を遺産分割協議といい、遺産分割協議の内容をまとめた書面を遺産分割協議書といいます。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、相続人が1人でも遺産分割協議に参加していないとその遺産分割協議書は無効となってしまいます。
もう一度、母親であるAが死亡して兄弟であるB、C、Dの3人が相続人となり、遺産分割前にBが死亡したケースを元に説明しましょう。このケースではBの妻Eや子どもFが二次相続に関与しますので、C、D、E、Fの4人が遺産分割協議に関与する必要があります。
遺産分割協議書には相続に関与した人の本籍、住所、肩書、氏名、生年月日等を記載し、全員が署名・捺印する必要があります。 数次相続が発生した際に悩むことが多いのが、肩書の記載です。 上のケースでは、Aの肩書は「被相続人」、CやDの肩書は「相続人」となります。他界したBは、一次相続の相続人であると同時に、二次相続の被相続人となります。したがってBの肩書は「相続人兼被相続人」となります。EとFは二次相続の被相続人Bの相続人ですので、肩書は「B相続人」となります。
相続人が遺産分割中に亡くなった場合の途中で止まっている遺産分割協議はどうなるの?

- 遺産分割協議は遺産分割協議書に相続人全員が合意して相続登記が確定すると完了する
- 遺産分割手続が完了する前に新たな相続が発生したときは、遺産分割協議を最初からやり直す必要がある
遺産分割協議前に二次相続が生じた場合にどうなるかは理解できました。では、遺産分割協議を途中まで進めたものの、途中で相続人の一人が亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。
遺産分割協議が成立しているかどうかが問題となります。 遺産分割協議が有効に成立していればその部分については効力を生じますが、合意がなされていない場合には最初からやり直す必要があります。
最初からやり直すというのは大変そうですね。詳しく教えていただけますでしょうか。
遺産分割協議は相続人間の紛争がなければ2、3か月程度で終了することもありますが、調停などに発展して1年以上かかる場合もあります。遺産分割協議の途中で二次相続が発生した場合、途中まで進めた遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか。 遺産分割の内容について合意がなされていない場合には、最初から手続をやり直さなければいけません。遺産分割協議の内容は、遺産分割協議書の内容に相続人全員が合意した時点で確定し、相続が発生した日にさかのぼって効力が生じます。
したがって、新たな相続が発生した時点で遺産分割協議の内容について合意が成立していれば数次相続は問題とならず、新たな相続についてのみ遺産分割協議を行えば問題ありません。 遺産分割協議が長引くと、手続中に二次相続や三次相続が発生し、相続関係がどんどん複雑になっていくおそれがあります。
相続人が多ければ多いほど遺産分割の手続は煩雑となってさらに長期化したり問題の落としどころが見えなくなって泥沼化する可能性もあります。相続人同士で紛争になっているケースなどではどうしても話し合いが長期化しがちですが、できる限り迅速に手続を進めることが肝心です。
相続登記の方法

- 死亡した中間者が相続登記をしなくていい「中間省略登記」という手続がある。
- 中間省力登記をするための条件は4つあり、該当しなければ中間者が相続登記する必要がある。
死亡した母は自宅の土地・建物を所有していました。その不動産には、現在、他界した兄の家族が住んでいます。そこで不動産は兄の妻に相続させたいと考えています。
相続財産に不動産がある場合には、法務局で相続登記の手続をする必要がありますね。
そうなのです。そこで、相続登記の方法について質問があります。今回のように数次相続が発生した場合は、母から死亡した兄へ、そして兄から兄の妻と、2回にわたって相続登記をする必要があるのでしょうか。
そのような場合には、お母様からお兄様の奥様へ直接登記を移すことができる「中間省略登記」という手続があります。
中間者が相続登記をしなくてよい場合
相続財産に不動産が含まれる場合、遺産分割協議がまとまった後に法務局で相続登記を行う必要があります。たとえばもともと不動産を所有していたAが死亡してAの子どもであるBが1人で相続し、そこからさらにBの子であるCに相続された場合、A→B→Cと相続登記を経るのが原則です。
しかしAが死亡した直後にBが死亡して数次相続が発生した場合には、わざわざBを経由してAからCに相続登記を行う必要がないようにも思われます。そこで、一定の場合にはBへの登記を省略することが認められています。これを中間省略登記といいます。 中間省略登記が認められるのは次の場合です。
たとえば上の例のようにA→B→Cへと相続が行われた場合には、中間の相続人はBのみですので(ア)に該当し、AからCへの中間省略登記が可能です。
中間者が相続登記してからでないと最終の相続登記ができない場合
上で説明した4つに該当しない場合には、原則どおり、相続が行われた順番で登記の手続を行う必要があります。
ABCは三兄弟で、不動産の所有者であるAが死亡し、兄弟であるBとCが遺産分割協議を行っていたが、その途中でBが死亡し、Bが相続するはずだったAの財産の2分の1をBの妻であるDが相続することになったとします。この場合は「中間の相続人」がBとCの2人になりますので、(ア)には該当せず、AからB、BからDという2つの登記手続を経る必要があります。
まとめ
このように、遺産分割前や遺産分割中に相続人が死亡すると相続関係が複雑になり、問題が長期化しやすくなります。 相続人同士でのトラブルを防ぐためにはなるべく迅速に相続手続を進めることが望ましいのは言うまでもありませんが、どうしても相続関係が複雑化してしまうケースがあります。そのような場合には相続問題の専門家である弁護士などに相談するとよいでしょう。

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