
- 遺留分侵害額請求権の時効について
- 遺留分侵害額請求権が時効にかからないようにするには
- 時効にかかっている遺留分侵害額請求権の行使がされた場合の対応方法
【Cross Talk 】遺留分侵害額請求の時効について詳しく知りたい
遺留分侵害額請求について相談させてください。 父が亡くなり、母・兄・私で相続をすることになったのですが、生前父は兄に遺産を全部譲る旨の遺言書を作成しており、私は何も相続できなくなってしまいました。 私も入用があるので、多少は相続させてほしいとお願いしたのですが、母の面倒を見ているのでそれはできないの一点張りです。遺留分侵害額請求権というものがあることを知ったのですが、請求しないと時効にかかると聞いたのですが…。
はい、相続の開始及び遺留分の侵害があったことを知ったときから1年以内に請求しないといけません。この請求は内容証明で行うことが一般的です。遺言書の内容を知ってからどれくらい経っていますか?
まだ8ヶ月くらいです。詳しく教えていただいてもよろしいですか?
遺留分(民法1042条)を侵害された場合には、遺留分侵害額請求権を行使することができます(民法1046条1項)。 この遺留分侵害額請求権は1年で時効により消滅します(民法1048条)。 請求する側として、いつから1年なのか、どのようにすれば遺留分侵害請求権が時効にかからないようにできるのか知っておくべきです。遺留分侵害額請求権が時効にかかった際に請求された側としてはどのように対応すれば良いかについても併せて知っておきましょう。
遺留分侵害額請求権と時効について

- 遺留分侵害請求権の概要
- 遺留分侵害額請求権の時効は相続及び遺留分の侵害があったことを知った日から1年で時効にかかる
遺留分侵害額請求権が1年で時効にかかるというのは、いつから1年で時効にかかるのでしょうか。
相続開始及び遺留分の侵害があったことを知った日から1年で時効にかかることになっています。
遺留分侵害額請求権はいつ時効にかかるのかを正確に確認しましょう。
遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に、相続において最低限保障されている権利のことをいいます。 日本では、自分の死後のことを考えて、民法等法律の定めに従った内容ではない方法で自分の遺産を相続人や第三者に分配をすることができます。
これによって、相続人の中には、法律上定められている相続分よりも少ない遺産しか相続できないという場合や、全く相続できないという場合が発生します。 しかし、遺産を全く相続できなくなったことで、相続人の生活に支障がでるおそれがあることから、法律で相続に際し最低限確保できる権利を遺留分として定めています。 なお、民法1042条で明確に兄弟姉妹には遺留分がないことを規定している点に注意をしましょう。
遺留分の割合は、総体的遺留分として、遺産全体に対し、基本的には1/2、親・祖父母のみが相続人である場合には1/3と定められており(民法1042条1項)、さらに複数人相続人がいる場合には、総体的遺留分(遺産の1/2または1/3)に対して、各相続人の法定相続分を乗じたものと定められています(民法1042条2項)。
遺留分侵害額請求権とは
遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害されている方が、遺留分を侵害している方に、遺留分に相当する金銭の支払いを求める請求権です(民法1046条)。 以前は遺留分減殺請求権として制度が定められていましたが、法改正によって現在では遺留分侵害額請求権となっているので注意をしましょう。
この改正により、遺留分を侵害している方に対する請求は、金銭の支払いを求める請求となりました。 遺留分を侵害している方というのは、遺贈を受けた方や生前贈与を受けた方などのことをいいます。 遺贈と生前贈与が複数ある場合には、まずは遺贈を受けた方・次に生前贈与を受けた方の順番で請求をしていきます(民法1047条1項1号)。
遺贈を受けた方が複数いる場合には、基本的に遺贈の価格に応じて遺留分侵害請求権に応じることになります(民法1047条1項2号)。 生前贈与を受けた方が複数いる場合には、生前贈与を受けた順番が後の方から順番に遺留分侵害額請求に応じることになります(民法1047条1項3号)。
遺留分侵害額請求権の時効について
この遺留分侵害額請求については、時効と除斥期間の2つの期間制限があることを知っておきましょう。 遺留分侵害額請求権は1年で時効にかかる旨が規定されています(民法1048条前段)。 この1年は、「相続開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから」計算することになっています。
そのため、遺言者が亡くなったということは知っていても、遺留分を侵害する遺贈をすることを内容とする遺言書が1年後に見つかった場合に、遺留分侵害額請求権は時効で行使できなくなるわけではなく、1年後の見つかったことを知った時点から1年で計算することになります。 なお、民法1048条後段は、相続開始の時から10年を経過したときも同様とすると規定しています。 「同様とする」と規定しているので時効のようにも思えますが、遺留分権利者の認識に関わらず一定の期間で権利が消滅することになることから、この10年の期間は除斥期間とされています。
遺留分侵害額を請求する場合

- 遺留分侵害額請求が時効にかからないためには1年以内に請求を行う
- 遺留分侵害額請求は配達証明付き内容証明で行う
遺留分侵害額請求をしたいのですが、どのように行えば良いのでしょうか。
まずは1年以内に遺留分侵害額請求をすることを内容証明で相手に通知をします。具体的な金額や支払い方法についての決定はそのあとでも大丈夫です。
遺留分侵害額請求をする場合の方法について確認しましょう。
侵害を知ってから1年以内にまず行使をする
遺留分侵害額請求については、上記のように1年という非常に短い時効があります。 そのため、金額などが確定しなくても、まずは遺留分侵害額請求をする旨の通知を1年以内に行う必要があります。 これによって、時効で請求権が消滅することがなくなりますので、あとはその額がいくらであるか、どうやって支払うかを決めていくことになります。
行使は配達証明付き内容証明郵便でする
実際に請求をする際には、配達証明付き内容証明郵便を利用することが一般的です。 法律には、遺留分侵害額請求をするにあたって、どのように行うかは全く規定されていないため、直接口頭で、電話・書面・SNSなど、どのような手段を使って権利行使をしても法律上は問題ありません。 しかし、1年以内に遺留分侵害額請求をしたことが証明できないと、相手に時効を主張されたときに、反論ができなくなってしまいます。 そのため、どのような書面を送ったかを証明してくれる、内容証明郵便を利用します。 この内容証明郵便を利用する際に、配達証明をつけておくと、いつ相手に到達したかも証明してくれますので、1年の時効期間内に送ったことが証明できます。
通常の金銭債権の時効に注意
1年の時効期間内に遺留分侵害額請求権を行使した場合、遺留分侵害額請求権は金銭債権となります。その結果、行使した遺留分侵害額請求権は、通常の金銭債権と同様の消滅時効にかかることになり、行使時から5年(民法166条1項1号)または10年(同項2号)で時効により消滅することになります(改正民法施行前(2020年3月31日以前)に行使されたものについては10年(旧民法167条1項)となります)。
遺留分侵害額請求権を行使されたが時効にかかっていたときは

- 遺留分侵害額請求権が時効にかかっている場合の相手の行動
- 相手の行動に対応する方法
遺留分侵害額請求権が時効にかかっている場合に相手はどのように行動するのでしょうか。
請求をしてきた場合には時効を主張されますし、裁判を起こしたとしても時効にかかっていて請求できないことを主張して、請求棄却となることを求めることになります。
時効にかかった遺留分侵害額請求権を行使された場合の対応について確認しましょう。
時効にかかっていると主張をする
当然ですが、すでに時効にかかっていると主張します。 請求者が遺留分侵害の事実を知ったと主張する時点が誤っており実際には請求の時点で1年を経過している場合には、請求をした時点で既に遺留分侵害額請求権は時効により消滅しているという主張をすることになります。
できれば内容証明郵便で返答を
上述した通り、遺留分侵害額請求は、証明の観点から、請求をした内容と時期を客観的な記録として残しておいた方がよく、配達証明付き内容証明郵便で行われることが一般的です。 これに対して、どのような返答をいつしたのかということについては、特に証明をする必要がないので、内容証明郵便を利用する必要性は高くはありません。
もっとも、内容証明郵便は、実務上、相手に対して強い主張をする場合に使われることも多いので、請求を受けた遺留分侵害額請求権が時効により消滅しており支払わない旨を内容証明で返答することによって、請求者に対して、今後調停申立てや訴訟提起をしても遺留分侵害額請求は認められないということを、強く主張することができます。
万が一調停や訴訟を起こされた場合でも、時効にかかっていることを主張する
万が一調停や訴訟を起こされた場合には、相手の主張に対して、時効にかかっていることを主張し、これを証明すれば、相手の主張は認められず、金銭を支払わなくても良いということが認められます。
遺留分侵害額請求をした際に争いになりやすい点

- 不動産の評価が争われる
- 遺留分侵害額請求をする前に遺言書の有効・無効を争われる可能性がある
- 養子縁組の効力が争われる
遺留分侵害額請求をする際にどのようなことで争われるでしょうか?
遺留分額で主に争いになるのは不動産の評価で、遺留分侵害額請求には関係のない遺言の有効無効や、養子縁組をした方が遺留分侵害額請求をした場合にベースになる養子縁組の効力が争われることがあります。
遺留分侵害額請求が行使される際にはどのような争いが発生することがあるのでしょうか。
不動産評価
家を遺贈されたような場合に、遺留分侵害額請求があった場合に、侵害された遺留分がいくらになるかを争うことがあり、特に不動産をいくらと評価することが争われます。 不動産の評価については、いつの時点の評価とすべきか、どのような基準で計算するかが争われます。 いつの時点の評価で計算すべきかについては、通常は相続発生時=被相続人が亡くなった時を基準とします。
遺贈のときに大きく変わることはあまり考えられませんが、生前贈与である場合には、贈与時に低い金額だったものが、その後に値上がりしたような場合もありますので、相続開始時で計算することに注意をしましょう。 また、不動産の評価については
などの評価方法があります。 どの評価方法で計算するかについて明確に定められていません。 当事者に都合の良い方法を採用して計算するのが良いでしょう。
遺言書の有効・無効
遺留分の侵害をされている方は、自分に不利な遺言がある、ということになります。 そのため、自分に不利な遺言が無効ではないのかを争うことが考えられます。 これから遺言をする場合、本人の嘱託に基づいて公証人が作成する点で信頼性が高く、無効であると争われる可能性が低い公正証書遺言を利用するのが良いでしょう。
養子縁組の無効
遺留分を侵害された子どもが養子である場合、前提となる養子縁組を無効であると主張される可能性があります。 年をとってから養子縁組をする場合には、無効を主張されないように、養子縁組をしたときの状況を伝えられるようにしておくのが良いでしょう。
まとめ
このページでは、遺留分侵害額請求と時効の関係についてまとめました。 1年と短い時効期間があるものなので、請求をする際にはスムーズに行動をすることを心がけましょう。

この記事の監修者

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