遺言執行者とはどのようなことをする人なのか。付けた時のメリットや報酬は?
ざっくりポイント
  • 遺言執行者の仕事内容
  • 遺言執行者の選任方法
  • 遺言執行者の報酬
  • 遺言執行者の解任・辞任
目次

【Cross Talk】遺言執行者って、何をする人?

少し前に父が亡くなったのですが、最近になって父が書いた遺言書が出てきました。このような場合、遺言執行者を付けた方がいいという話を以前に聞いたことがあるのですが、そもそも「遺言執行者」とは、何をする人なのでしょうか。

「遺言執行者」は、遺言の内容を実現するために必要な手続をしてくれる人のことをいいます。

遺言執行者を付けるメリットや報酬を理解し、遺言の内容を正確に実現しよう!

遺言の内容を実現するためには、そのために必要な手続を行う必要があります。しかし、これらの手続を相続人間で行おうとすると、トラブルを招く可能性があります。 このような場合に、遺言執行者を選任することで、遺言の内容を正確かつ公正に実現することができます。 この記事では、遺言執行者について詳しく見ていきたいと思います。

遺言や遺言執行者とは?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 「遺言」の意味
  • 「遺言執行者」とは何をする人なのか

そもそも「遺言」と「遺言執行者」を正確に理解していないのかもしれません。

遺言執行者を付けるかどうかを検討するためには、その前提として、「遺言」と「遺言執行者」の意味をきちんと理解していることが必要です。

遺言の内容を実現するために必要な手続を行ってくれる人を「遺言執行者」といいますが、まずは、ここでいう「遺言」と「遺言執行者」について、詳しく見ていきましょう。

遺言とは

「遺言」とは、亡くなった人(被相続人)が、自分の死後に効力を発生させることを目的として残す意思表示のことをいいます。被相続人が財産(相続財産)を所有している場合、遺言を作成しておくことにより、相続財産の扱いに関する被相続人の意思を残すことができます。

「遺言」は、民法が定める方式で作成されなければ、有効な遺言として認められません。具体的には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3つの方式があります。

遺言執行者とは?

「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現するために必要とされる手続を行う人のことをいいます。一般的には、「相続財産を分与するための手続」であることが多いといえます。 たとえば、預貯金口座の解約、不動産登記の名義変更などの手続が、ここでいう「相続財産を分与するための手続」にあたります。 遺言執行者を付けることにより、遺言の執行をスムーズに進めることができるというメリットがあります。

遺言執行者が行うこと

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺言執行者にしか執行できないこと
  • 遺言執行者でも相続人でも執行できること
  • 遺言執行者の仕事内容

遺言の内容を実現するために必要な手続は、遺言執行者にしか行うことができないのでしょうか。相続人が行うことはできないのでしょうか。

遺言執行者にしか執行できない手続もありますが、それ以外の手続は、相続人でも執行できます。

遺言執行者が付いた場合、遺言の内容を実現するために必要な手続はすべて遺言執行者が行うことになるのでしょうか。

遺言執行者のみが執行できること

遺言に「子の認知」や「相続人の廃除・その取消し」「一般社団法人を設立するための定款作成」に関する意思が示されている場合、これらを相続人が行うことはできないため、遺言執行者を選任する必要があります。 ここでいう「相続人の廃除」とは、裁判所を通して、被相続人を虐待していた相続人や重大な非行があった相続人から相続人としての地位を奪うことをいいます。

さらに、2020年4月1日から施行された改正民法では、遺言執行者が指定されている場合に、遺言執行者のみが執行できることとして「遺贈の履行」が追加されました。 ここでいう「遺贈」とは、遺言によって相続人以外の者に相続財産を譲り渡すことをいいます。 仮に、相続人に遺贈を履行させようとすると、遺贈を不満に思っている相続人が履行をしない可能性があるため、遺贈の履行についても、遺言執行者が指定されている場合には遺言執行者のみが執行できることとされました。 他方、遺言執行者が指定されていない場合には、相続人自身が遺贈の履行をしても構いません。

このように、遺言において、「認知」「相続の廃除・その取消し」「一般社団法人を設立するための定款作成」に関する意思が示されている場合は、遺言執行者のみが執行できることとされているため、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。

遺言執行者でも相続人でも執行できること

基本的には、遺言執行者のみが執行できることに含まれない手続は、遺言執行者でも相続人でも執行することができます。 たとえば、遺言において、「不動産をAに、預金をBに相続させる」といったように、遺産分割の方法が具体的に指定されている場合(遺産分割方法の指定といいます)、この内容を実現するために必要な手続は、遺言執行者はもちろんのこと、相続人が執行することができます。

遺言執行者の仕事内容

遺言執行者の仕事内容は、民法で定められています。 具体的には、遺言執行者は、遺言の内容を実現するために相続財産を管理するなど、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持っています。 相続財産目録の作成・交付、預貯金口座の解約などの手続が、ここでいう「遺言の執行に必要な行為」として挙げられます。

遺言執行者を付けるメリット

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺言執行者を付けた場合のメリット

遺言執行者を付けるかどうか悩んでいるのですが、遺言執行者を付けるとどのようなメリットがあるのでしょうか。

メリットは大きく分けて2つあります。順に見ていきましょう。

遺言執行者を付ける1つ目のメリットは、遺言の内容を適正に執行できるということです。遺言執行者には、遺言の内容を実現するために必要とされる手続を行う権限が与えられています。 たとえば、他の相続人が勝手に相続財産を処分してしまうようなことを防止することができます。 2つ目は、遺言の内容を実現するために書面の作成が必要となるケースでは、最終的に書面に相続人の署名押印が必要になります。 このような場合に、相続人が複数いると相続人全員の署名や押印を揃えるだけでも一定の時間と手間がかかります。その点、遺言執行者を付けていれば、遺言執行者が相続人の代表として効率よく手続を進めてくれるため、時間や手間を省くことができます。

このように、遺言執行者を付けることには、遺言の内容を迅速かつ正確に実現することができ、また、他の相続人による不正行為等を事前に防止することができるというメリットがあります。

遺言執行者の選任方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺言執行者になれない人は?
  • 遺言執行者を選任する方法は?

相続人だけで対応するには、色々とハードルが高いようなので、遺言執行者を付けようと思うのですが、どのような手続を踏めばいいのかがわかりません。

遺言執行者を付ける方法は2通りありますので、詳しく見てみましょう。

遺言執行者は誰でもなれるわけではありません。 遺言執行者を選任する方法を見る前に、まずは、遺言執行者になれない人がどのような人なのかを簡単に見てみましょう。

遺言執行者になれない者

遺言執行者に求められる任務は、遺言の内容を実現することにあるため、遺言執行者には正確性や公正性が求められます。 このような観点から、未成年者や破産者は遺言執行者になる資格が認められていません。

遺言による方法

遺言執行者を選任する方法の一つとして、遺言書で遺言執行者を指定するという方法があります。 遺言による方法では、さらに、遺言書で直接遺言執行者を指定する方法と遺言書で遺言執行者の指定を第三者に委託する方法の2つに分かれます。

遺言書で直接遺言執行者を指定する場合は、たとえば、遺言書に「Aさんを遺言執行者に指定します」といった記載を残すことで、Aさんが遺言執行者に指定されることになります。 他方で、遺言書で遺言執行者の指定を第三者に委託する場合は、遺言執行者の指定について一任する人を遺言書で指定します。 この場合は、遺言執行者の指定を任された人が、遺言執行者を指定することになります。

家庭裁判所による方法

遺言書において、遺言執行者が指定されていない場合や第三者に遺言執行者の指定が委託されていない場合もあります。 また、指定された遺言執行者が職に就くことを拒絶するケースや、遺言執行者が死亡してしまうケースもあります。 このような場合は、他の相続人などの利害関係人の請求によって、家庭裁判所が遺言執行者を指定することができるようになっています。

遺言執行者の報酬

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺言執行者の報酬額
  • 遺言執行者が立て替えた費用は相続財産の負担となる

遺言執行者を付ける場合、やはり報酬を支払う必要があるのでしょうか。

はい。ただ、遺言執行者として誰を指定するかで報酬額もまちまちのようです。

遺言執行者は、遺言の内容を正確に実現するという重大な任務を負うことになります。そのため、遺言執行者には、任務の対価として報酬を支払う必要があります。

 

遺言執行者の報酬

遺言書において、遺言執行者を指定するとともに、その者に支払うべき報酬額が記載されている場合があります。この場合は、遺言書に記載されている金額が遺言執行者の報酬額ということになります。

もっとも、遺言書に遺言執行者の報酬についてまで記載されていない場合もあります。 この場合は、遺言執行者が家庭裁判所に報酬付与の審判を申し立て、裁判所に報酬額を決めてもらうことになります。 遺言執行者の報酬には、遺言執行者の属性によって、およその相場が存在しますが、報酬は自由に決めることができるので、各銀行、事務所によって金額は上下します。 遺言執行者として「信託銀行」を指定する場合、報酬額は100万円~が相場となっています。相続財産の金額に応じて0.3%~3%に相当する金額が報酬となっている銀行が多いようです。

遺言執行者として「弁護士」を指定する場合、報酬額は20万円〜程度となっている事務所が多いといえます。 具体的な算定方法は、信託銀行の場合と同じように、相続財産の金額に応じて0.3%~3%となっている事務所が多いようです。 遺言執行者として「司法書士」を指定する場合、報酬額は30万円程度が相場となっています。具体的には、相続財産の1%程度に相当する金額が報酬となっている事務所が多いようです。

ここで注意すべき点は、仮に、相続人間などにおいてトラブルが生じ、訴訟を提起する必要が生じたような場合、弁護士以外の者では対応することができません。そのため、弁護士以外の者を遺言執行者として指定した場合には、別途弁護士費用がかかるということになります。

遺言執行者の費用は相続財産の負担となる

遺言執行者が遺言の執行に必要な費用を立て替えた場合、遺言執行者は相続人等に対し、その償還を請求することができます。(費用償還請求といいます) 立て替える前であれば、遺言執行者は相続人等に直接その費用を支払うように請求することもできます。 また、過失なくして遺言執行のために被った損害についても、遺言執行者は相続人等に対し、その賠償を請求することができます。

もっとも、遺言執行者が償還請求できる費用は、相続財産の額を上限として、遺言執行のために必要と認められる範囲に限られます。

遺言執行者の地位喪失、解任・辞任について

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺言執行者の地位が失われる場合
  • 遺言執行者を解任できる場合
  • 遺言執行者が辞任できる場合

遺言執行者は、どの時点をもって職を解かれることになるのでしょうか。また、遺言執行者に問題がある場合、解任等をできるのでしょうか。

遺言執行者を解任することはできますが、解任するためにはきちんとした理由が必要になります。

遺言執行者の任務は、遺言の内容を実現することにあるため、遺言の執行をすべて終えれば、基本的には、遺言執行者としての地位を喪失します。 もっとも、一定の理由がある場合には、任務の途中で遺言執行者を解任することや遺言執行者自らがその地位を辞任することも認められています。

遺言執行者の地位喪失

遺言執行者は、遺言の執行を終了することにより、遺言執行者としての地位を喪失します。 このほか、遺言執行者が死亡した場合、遺言執行者に欠格事由(遺言執行者が破産するなど)が発生した場合も、遺言執行者はその地位を喪失することになります。

遺言執行者の解任

相続人は、一定の条件を満たす場合には、任務途中であっても遺言執行者を解任することができます。 具体的には、遺言執行者が任務を怠ったとき、または、解任について正当な事由があるときのいづれかにあてはまる場合です。

遺言執行者が任務に反する行為をした場合、任務を放棄するなどして遺言の内容を一部であっても執行しなかった場合は、「遺言執行者がその任務を怠ったとき」に該当します。 たとえば、相続財産目録を正当な理由なく相続人に交付しなかった場合、相続財産の管理が不十分であった場合などが挙げられます。

遺言執行者において、適切・公正に遺言を執行することが期待できないような事情が認められる場合、解任について「正当な事由があるとき」に該当すると判断される可能性が高いでしょう。 もっとも、遺言の解釈をめぐって、遺言執行者と相続人の間で争いが生じた場合などに、このことが解任についての正当な事由とはなりません。

以上2つのいずれかにあてはまる場合、利害関係人(相続人など)は、遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求することができます。家庭裁判所により遺言執行者の解任が決定され、同決定が確定すると、遺言執行者はその地位を失うことになります。

遺言執行者の辞任

遺言執行者は、基本的に、その地位を自由に辞任することはできません。 もっとも、辞任をすることについて正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます。 「正当な事由」としては、たとえば、病気、長期にわたる不在、職務の多忙などが挙げられます。

遺言執行者が辞任を認めてもらうためには、家庭裁判所に「辞任許可審判」を申立てなければなりません。 家庭裁判所は、遺言執行者が就職した時の事情や任務の難易度、報酬を受け取っているかどうかなどを調査して、辞任を認めるかを判断します。

裁判所により辞任を認める旨の審判が下されると、遺言執行者はその地位を失うことになります。 この際、相続人等がすぐに相続財産を管理することができないような場合があります。その場合には、相続人等が相続財産をきちんと管理できるようになるまでの間、遺言執行者は、必要な処分をすることを求められることがあります。

また、遺言執行者は、辞任の許可審判が確定した後には、そのことを相続人に通知しなければなりません。 遺言執行者を辞任して任務が終了したことを相続人に対抗するためには、そのことを相続人が知っていることが必要になるからです。 そのため、遺言執行者が相続人への通知を怠っている間は、相続人に対し任務が終了していることを対抗できなくなるため、注意が必要です。

まとめ

正確性・公正性等をもって、遺言の内容を実現する任務を負っているのが遺言執行者です。 遺言執行者を選任することにより、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができ、遺言の内容を早期に実現することができます。とはいえ、遺言が原因となって相続人間でトラブルとなるケースも少なくありません。 遺言書が出てきた際には、弁護士にご相談頂くことをお勧めします。

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この記事の監修者

弁護士 手柴 正行第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 法教育委員会委員
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