
- 遺言書が有効であるための要件
- 遺言書が無効であるような場合
- 遺言書の無効を主張するための方法
【Cross Talk】そんな遺言書、書ける訳がなかった!として無効であると主張したいんだけど…
先日母が亡くなり、相続が発生しました。すでに父も他界しているため、相続人は兄と私のみになります。実は母の遺言書が出てきたのですが、母は認知症を患って施設に入居してから外に出ることもできないほどだったのです。
意思能力を欠く場合には遺言は無効になります。無効を主張する場合には、遺言無効確認の訴えを起こします。
詳しくお話しを聞かせてください。
遺言は民法の規定に従ったものでなければなりません。遺言の方式に関する要件を満たしていないような場合には遺言書があったとしても無効となります。 また遺言は自身の財産処分に関する意思表示なので、意思表示に関する要件も満たす必要があります。 遺言時に高齢で認知症などにより物事の判断ができなくなっているような場合や、自筆証書遺言を書いたけども法律の要件を満たさないものであった場合には遺言が無効なのではないかと主張することができます。遺言の無効が疑われる場合は、遺言無効確認の訴えを起こすことができます。
遺言書の効力

- 遺言がある場合の効力
遺言がある場合の効力はどうなりますか?
遺言の内容に照らして効力が変わってきます。詳しく見ていきましょう。
相続分の指定
遺言書に相続分を指定する旨の規定があった場合には、法定相続分による相続ではなく、指定された相続分によって相続をすることになります。
例えば、父・母・子ども2名の4人家族で父が無くなった場合、法定相続分は母が1/2で子どもがそれぞれ1/4ずつなのですが、相続分の指定がある場合には、その相続分によって相続します。 なお、相続分の指定の方法次第では、遺留分を侵害する可能性があります。
例えば、母の相続分の指定を1/10とした場合、母の遺留分は1/4なので遺留分を侵害することになります。 このような遺留分を侵害するような遺言でも遺言自体は有効ですが、その分多くの相続分の指定を受けた人に対して遺留分侵害額請求をすることが可能です。
遺産分割の方法の指定
遺言書に遺産分割の方法の指定がある場合には、これに従います。 例えば、不動産は長男に相続させるとしている場合にはこれに従うことになります。
相続分の指定は、遺産における相続割合を指定するものですが、遺産分割の方法の指定は特定の遺産をどのように分割するか直接指定するものです。 全ての遺産について指定がある場合にはこれに従い、一部の遺産についてのみ指定がある場合には、残った遺産について遺産分割を行ないます。 遺産分割の方法の指定で遺留分を侵害する場合も、遺言は有効ですが、遺留分侵害額請求ができます。
相続人の廃除
相続人の廃除の意思表示を遺言ですることが可能です。 相続人の廃除とは、特定の相続人が著しい非行など民法892条所定の事由があるときに、家庭裁判所認めれば、その特定の相続人が相続できなくなる制度のことです。
遺言があった場合には、遺言執行者が遺言書の記載にしたがって、対象となる人の相続人の廃除を求める請求を家庭裁判所に対して行ないます。 ただ、相続人の廃除は相続できなくなるという重大な効果を生じるので、家庭裁判所は慎重に廃除の要否を検討します。
遺贈
遺言で相続人以外の人に遺産を譲り渡すことを遺贈といいます。 遺言で遺贈をする旨の記載がある場合には、その記載に従います。 遺留分を侵害された場合に、遺留分侵害額請求をすることができる点については、相続分の指定・遺産分割の方法の指定がある場合と異なりません。
後見人の指定
未成年者に対して最後に親権を行う人は、遺言で未成年後見人を指定することが可能です(民法839条1項)。 未成年後見人の指定があった場合は、家庭裁判所の審判を経ずに未成年後見人となります。 この場合、未成年後見人の指定を受けた人は、戸籍法81条1項の規定に従って、届出を行う必要があります。
その他効力があるもの
その他
などの記載があると効力が発生します。
遺言の種類

- 遺言には普通方式と特別方式がある
- 大部分は普通方式の遺言書
- 普通方式の遺言には自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言がある。
遺言にはどのような種類があるのでしょうか?
主なものとしては自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があります。
遺言の種類について確認しましょう。 まず、遺言には普通方式と特別方式とがあります。 ただ、特別方式は病気で死亡の危機になる、遭難した船舶の中に居るなど、極めて特殊な状況で用いられるもので、実際大部分は普通方式によって行われます。
普通方式で行われる遺言には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言があります。 それぞれ概要を確認しましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言の趣旨を告げて、公証人が公正証書の形式で遺言書を作成するという遺言です。 実際には事前に公証人とやりとりをしながら最終的に作成する遺言書の内容をすりあわせて作成します。
公証人という法律の専門家が作成するため信頼性が高く争いになりづらい、作成した遺言書を検認する必要もない点がメリットです。 公正証書遺言の詳細については、以下のページでも解説していますので気になる方はご参照ください。 「公正証書遺言とは?作成の流れ・費用について解説」
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言書を自筆して作成する遺言です。 誰にも知られずに、かつ安価に作成することができるというメリットがあります。 一方できちんと作成しないと無効になりやすい、作成したことを秘密にするため死後も見つけられないなどのデメリットもあります。
最近の改正で、自筆証書遺言書を法務局で保管する、自筆証書遺言書保管制度がスタートしており、従来よりも使いやすくなっています。 自筆証書遺言の詳細については、以下のページでも解説していますので気になる方はご参照ください。 「そんなに難しくない?自筆証書遺言の書き方(メリット・デメリット)」
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書を自分で作成して、公証人・証人に遺言書の存在を証明してもらう方式の遺言です。 遺言書の内容は秘密にできる、遺言書があることは証人を通して伝えてもらうことができるなどのメリットがあります。
しかし、遺言書の内容に不備があれば無効となり、内容についてまで公証人が確認してくれるわけではないので、作成は慎重に行う必要があります。 秘密証書遺言の詳細については、以下のページでも解説していますので気になる方はご参照ください。 「秘密証書遺言の作成方法やメリット、開封方法などについて解説!」
遺言が有効になるための要件

- 遺言が有効になるための要件
- 遺言の規定以外にも意思能力が必要
遺言書がでてきた場合、有効な遺言であるかどうかはどのように判断できるのでしょうか。
遺言が有効といえるための要件を確認しましょう。
遺言は法律の規定に従って作成された場合のみ、有効なものとして効力が発生します。 どのような時に効力が発生するのでしょうか。
遺言能力
遺言には様々な方式があるのですが、前提として意思能力と遺言能力が必要です。 まず、意思能力というのは、民法の条文にはありませんが、「自己の行為の結果を弁識するに足りる能力」、つまり自分のやっていることがどのような結果になるのかを判断する能力です。 そして、遺言者が有効な遺言をするには、遺言の際に、意思能力、すなわち遺言内容及びその法律効果を理解判断できることができる必要な能力を備えることが必要です。
例えば加齢や認知症によって、遺言の内容を正しく理解できない状態などは意思能力を認められません。 また、遺言は15歳からできるとされているため、15歳以上になっていることが必要となります(民法961条)。
民法に規定された方法による遺言(遺言書の作成)
以上の共通の要件に加え、遺言書作成の際には民法が規定する方法で作成する必要があります。 民法が規定する遺言方法には、一般方式として自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。 また、あまり使用頻度は高くありませんが特別方式という遺言もあります。 遺言の方式については
こういったページで詳しく解説しているので、こちらも参照ください。
どのような場合に遺言が無効となるか

- 遺言が無効となる典型的な場合
遺言が無効になる場合とはどのようなときですか?
遺言が無効になる場合には、遺言能力がない場合、法律で規定された方法に沿って作成されていない場合などが挙げられます。
遺言能力がないとして争われる(認知症の場合)
遺言能力の有無については判断基準が明確でないため、もめる要因となる場合があります。 遺言は、人生の最終意思の表示であるため、高齢者に利用されることがほとんどです。高齢者の中には、認知症などを発症している人もおり、状態によっては遺産をどのように割り振るかなど複雑な内容を思考することが難しい場合もあります。
このような場合では遺言能力がないと判断される可能性があり、遺言が無効になることがあります。 公正証書遺言を作成しても、実際に無効になった裁判例もありますので注意が必要です。
法律の要件を満たしていない
民法で規定されている要件を満たしていない遺言は無効になります。 公正証書遺言では公証人が気をつけながら作成しているので、法律上の様式を満たさないという事はまずありませんが、本人以外は内容を確認しない自筆証書遺言、秘密証書遺言においては、記載要件を満たしておらず無効となる場合が多くあります。
例えば、自筆証書遺言には遺言の日付を記載する必要がありますが、日付を記載しなかった、曖昧な記載をした(よく挙がる例としては「◯月吉日」)ため、無効となる場合などです。
遺言が無効だと主張したいときにはどうすれば良いか

- 当事者間での話し合いができないような場合には遺言無効確認の訴えをおこす
- 有資格者に任せるときには弁護士に依頼する
遺言書の作成日には、既に母は重度の認知症でした。遺言は無効だと主張したいのですが、どのように行えば良いのでしょうか。
話し合いで遺言無効の合意が得られないときには、遺言無効確認の訴えを起こします。
遺言無効確認の訴え
遺言の無効について相続人同士の話し合いで合意が得られず、無効の疑いのある遺言書に記載された内容で相続が行われそうな場合には、遺言無効確認の訴えを提起することができます。 相続に関する争いは家庭裁判所に調停を申立てる場合が多いですが、遺言無効確認については地方裁判所に訴えを提起することになります。
依頼は弁護士にする
遺言無効確認に関しては、訴訟代理であるため弁護士に依頼することとなります。 普段から懇意にしている行政書士、司法書士、税理士などがいる場合は、弁護士の紹介をお願いするのも良いかもしれません。
相続人が知っておく必要がある遺言書の注意点

- 遺言書があったときに相続人が知っておくべきこと
- 遺留分を侵害されている場合には遺留分侵害額請求をすることができる
- 遺言書がある場合でも相続人全員の同意で遺産分割をすることが可能
相続人として遺言書があった場合に知っておくべき注意点はありますか?
遺留分や相続人全員が合意すれば遺産分割をすることができる点などについて知っておきましょう。
遺留分
例えば、遺言で第三者に全ての遺産を遺贈するという内容の有効の遺言がされた場合でも、遺言は有効です。 しかし、それでは生活に困る相続人が出てくる可能性があります。 そのため、相続人には遺留分という最低限の財産を相続できる権利があり、これが侵害された場合には、遺留分侵害額請求をすることができます。
相続人全員が違う内容の遺産分割をすることに同意した場合
遺言がある場合でも、相続人全員がその内容を承諾しているとは限りません。 そのような場合でも遺言書に作成された内容が優先されるのは、相続人に酷であるといえます。 そのため、相続人全員が同意をして遺産分割協議をして、遺言書の内容と違う遺産分割をすることが可能とされています。 ただ、第三者に遺贈するような内容が記載されている場合や、遺言執行者がいるような場合には、これらの人の同意も必要です。
検認をする必要がある
遺言には主に上記の3つの種類があり、どの方式による場合も遺言書が作成されています。 この遺言書について、公正証書遺言書と、自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言書以外の遺言書については、裁判所の検認の手続きを減る必要があります。 この手続には2ヶ月くらいの期間がかかることがあるので、手続きに時間が必要であることを知っておきましょう。
まとめ
このページでは、どのような場合に遺言書が無効になるのか、無効を確認する方法などについてお伝えしてきました。 遺言書の内容が怪しいと思う場合には、遺産を使われてしまないように、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。

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